佐賀町日記

林ひとみ

あとの夢

今年もあと僅か。 毎年のことながら、 年の瀬になると いつも感慨深い。 一年間よくがんばりました。 今年も いちねん おわります 365日 ときどき 366日 もしかして 8760じかん 3153万6000びょうの 夢ならどうしよう まばたきと まばたきに むすばれた 穏や…

詩 ひかり

夜空をみあげる みえるのは 星のひかりの しろがねの きらりきん ぢかぢかじ もしもしも いまはもう 死んだ星かも しれないけれど 夜空をみあげる みえるのは 星のひかりの むかしの噺

詩 水

水盤の まあるい水に 鳩がきた 水をのんで 帰っていった 水は 鳩と一緒に 飛んでいった のこりの水は 空をみあげて ゆれていた

詩 虹

窓をあけた 虹をみつけた 電話をかけた 君がいった いま 虹をみている

詩 5月

みどりの5月 ふくらむ光 森に入れば なお明るい 葉っぱはたべる 赤 と 青 緑は てとてと まわりだし 木のうえの 星は たかたか おっこちる ころがる神話の 笛の音 とてり たねり 青虫は 葉っぱの緑と みえない紫 たべている わたしもたべる 岩波文庫の 赤 青…

詩 パペット

ぼくは ぼくでしかない でもそれは ぼくのせいではない もし 神さまがいるのなら きいてみたい 土に息を ふきかけて ぼくを おつくりになった そのわけを ぼくは どうして ぼくなのか ぼくは どうして きみではないの 地球では すぐにみつかるよ 美しさより…

赤い月

きのうの夜 赤い月をみた 雲のほとんどない ブルーブラックの夜空 星がいくつか 輝いている 大きいの 小さいの 東の低いところに 黄金色の満月も 18:09 だんだん 月が欠けはじめる そのすこし前から 大気がゆれはじめ 風もぴゅうぴゅう 月のまわりの 青白い…

詩 あくび

夜中 空気洗浄機が歌を唄っていた 平和を愛する人間以外は 滅ぼしてしまえ! あまりにも人間的な なぜって そう 空気洗浄機は人間がうみだしたのだもの 力への愛だったのか 愛の力だったのか 人々はそれぞれに 意識と無意識で満たされている 健全なものが好…

詩 たんぽぽ

生花が 造花に 造花が 生花に みえる瞬間がすき うそが ほんとうに ほんとうが うそに ひらかれている優雅 運動は 静止を 静止は 運動を 身ごもっている なぜだろう 何もない 空っぽって 安心する 鼓動と体温を 信じられる やがて 人間がAIに AIが人間に 接…

詩 木犀

金木犀の 花の香りがする あなたどこにいるのですか とあたりをみまわす もういいかい まあだだよ 金色の かくれんぼ 銀木犀の 花が咲いている わたくしここに相います とほほえんでいる きっとだれかが みつけてくれる 銀色の にらめっこ

罪の天使たち

ロベール・ブレッソン監督の長編第一作品 「罪の天使たち/Les Anges du péché」/1943年をDVDで観た。 修道院を舞台とした、たましいの救済の物語は、 罪を犯して世間から逃れてきた娘たちと、 信仰のために世俗をすてた娘が出逢い、 院長や副院長などを巻…

詩集「藍の月」プレゼント

今春、流行したCOVID-19は 日本ではだいぶ落ちついてきた。 緊急事態宣言も段階的に解除されて、 都内のお店もぽつぽつ開きはじめ、 街には人が戻りつつある。 みな平然とした顔をしているけれど、 どこか恐る恐るという気持ちはマスクでは隠せない。 目にみ…

詩 レクイエム

きのう 春の雪が降った 天から地への ホワイトデー アレクサンドル・ソクーロフの ドキュメンタリー モーツァルトの レクイエムを観た 黒マントにすっぽり 身をつつんだ聖歌隊 楽譜を捧げ 舞台のうえを彷徨する 信徒は歌う 止まる 座る 集まる 散る 死神は近…

みぞれ

夜半より降りだした雨 冷たい雨が雪になりました しばらくするとまた雨となり ふたたび雪にかわります 鳥たち スズメとヒヨドリたちが いつもより頻繁に パンを食べにやってきます ベランダにつぎつぎと 枯枝に葉がついたように 鈴なりにとまり よく歌います…

お正月 2020

あけましておめでとうございます うす水色の空に 羽二重のような初日がひろがり わた雲は思い思いに くつろいでいます 静かで華やかな とくべつな朝 いつになく ひとの心も 湧泉のように 澄んでいます 尽きることのない その希は かぎりなく清らかです 高ら…

詩 クリスマス

街を歩く 灰色の天幕に 演出された 聖なる日を行く ひとり ふたり さんにん 群衆へ告げる 拡声器の福音 イエス・キリストは わたしたちの罪の犠牲となられたのです 悔いあらためるは幸いの者 神の国は近づいています 銀色のスーツケースが むかってくる スニ…

詩 こおり

水たまりに薄い氷がはった 指でそっと押してみる 息をころす たちまち壊れた ゆらり 氷が水のなかに ちぎれて浮かぶ 架空の大陸 輝きながら 小さくなってゆく 透明な朝 カーテンをあける 白いカーテン 世界に色がうまれた いろいろな色 ちりばめられた 太陽…

なみ

はるかにつづく おおきなひろい 海とじいっと むきあっていると ざわついた心の波が すうとひいてゆく ざざざざん ざぶざぶん わたしはなんてちいさく はかない存在でしょう あなたをまえに それはとてもうれしいこと と呟くと いかにも わたしのかわいい娘…

詩 せみ

ぽつぽこ ぽつぽこ 地面に空いた ふしぎな穴 あたり一面 あちこちに ひとさし指と 同じくらいの ブラックホール 小枝をさして ごめんください けれどももう 誰もいない ナイーヴな あなたたちは お月様だけが みているときに こっそり 這いだして しずかに …

詩 うみとそら

ひろいうみをみると あおいそらを思い出す ふねは うみの鳥 世界をつなぐ うみを飛ぶ 光の届かない 海底では 宇宙の音がきこえる ひこうきは そらの魚 世界をむすぶ そらを泳ぐ はるか 彼方には 漆黒の宇宙がひろがる いつしか人は 言葉を発明し 天と地を 分…

詩 泰山木

もくもく まっしろ そらにうかぶ くものような たいざんぼくの おおきな花 まるで 樹上の蓮の花 きよらかに たいぜんと 梅雨のすこし前に 咲きはじめる 傍らには しろつめ草 くちなし 白あじさい みな 純白のしあわせに染まる 6月の花嫁のよう 露にぬれて …

詩 青むし

5月のある夜 音楽の流れる スピーカーに 小さな青むしが はりついていた もしかすると 音楽がすきな 未来の蝶かもしれない 思いがけない ちいさななかまと 流れる音に 耳を澄ましていると ゆらり ふわりと あたたかくも すずやかな 夜風が カーテンを揺らし…

詩 そら

木立のレースにかこまれた 土色のグラウンドに 空たかく たかく蹴りあげられた サッカーボール その行方をみつめる 3歳のあどけなき少年は つぶやいた お空がわれちゃうかとおもって びっくりした そうだ お空がわれたらどうなるの ときいてみると がらがら…

詩集「藍の月」

詩集「藍の月」をつくりました。 A5判、68頁。 詩22篇を挿画ととも収録。 2018年11月22日発行。 詩集を通して ご縁のある方と出逢えますように。 下記よりご注文いただけます。 よろしくお願いいたします。 季節書房HP https://kisetu-shobou.jimdofree.com …

詩 かぼちゃ

トリック・オア・トリート! いたずら・か・お菓子! かぼちゃの ランタンに照らされて 呪文をとなえる ハロウィンの魔法の夜 ニャーニャオと かわいらしい2匹の猫が 電車にのってきた 三角の耳に ふさふさした体毛と しっぽのついた グレーの猫は こどもで…

詩 しゃぼん玉

まんまる きらきら 夢いっぱいに ふくらんだ しゃぼん玉のような こどものひとみが いつしか 音もなく はじけて しぼんでしまうことがあっても だいじょうぶ 地球に やってきたばかりの 幼いたましいは 色々なことを 経験したくて 好奇心で いっぱいだから …

詩 藍の月

昼と夜の 淡いはざま 夕暮れどきの ゆらめく空に おとぎ話のような 三日月が ぼうっと うかんでいた やわらかな 藍と桜色とに 彩られた世界は めくるめく 甘美なシンフォニーを 総奏しているかのようだった 青と赤の 優美なドレスを纏った イソヒヨドリが 飛…

詩 春いちばん

くる日も くる日も くるくると 公転している地球に 季節がめぐるように ひとの心にも 四季があるとしたら 冬の厳しさを やり過ごすように ぎゅうぎゅうと 胸にしまわれた いたみや かなしみは 陽気に 吹きあれる 春いちばんに あずけましょう また 動物たち…

詩 ゆめ

夢をみている 夢をみた 夢のなかの またその夢 そばにいる君と鳥と 夢のなかでも遊ぶ わたしたちがいま 生きている時空は 本当には なんだろう わたしも きみも あのひとも ほんとうに みたい物語 つくりだす 魔法使い 夢をみている 夢をみた 夢のなかの ま…

詩 イヴニング・エメラルド

わたしのなかの 男性はあなた あなたのなかの 女性はわたし 表現されることのなかった可能性を 演じ合う 土に息を吹きかけて 人間をつくった神々は どうしてこれほどまでに 美しく豊かな世界を 完璧につくりだしたのだろう 闇や悪の力さえ その光のうちに 吸…