佐賀町日記

林ひとみ

2019-01-01から1年間の記事一覧

詩 クリスマス

街を歩く 灰色の天幕に 演出された 聖なる日を行く ひとり ふたり さんにん 群衆へ告げる 拡声器の福音 イエス・キリストは わたしたちの罪の犠牲となられたのです 悔いあらためるは幸いの者 神の国は近づいています 銀色のスーツケースが むかってくる スニ…

詩 こおり

水たまりに薄い氷がはった 指でそっと押してみる 息をころす たちまち壊れた ゆらり 氷が水のなかに ちぎれて浮かぶ 架空の大陸 輝きながら 小さくなってゆく 透明な朝 カーテンをあける 白いカーテン 世界に色がうまれた いろいろな色 ちりばめられた 太陽…

もみぢ なわしろぐみの花

11月8日の立冬をまたぎ、 暦のうえでは過ぎ去ってしまった秋だけれど、 東京はちょうど紅葉の見頃を迎えている。 ここ数日の風雨でいくぶん散ってしまったが、 気温もぐっと下がり、色が深まり、 赤や橙や黄が透き通るように鮮やかだ。 陽光をうけたもえるよ…

なみ

はるかにつづく おおきなひろい 海とじいっと むきあっていると ざわついた心の波が すうとひいてゆく ざざざざん ざぶざぶん わたしはなんてちいさく はかない存在でしょう あなたをまえに それはとてもうれしいこと と呟くと いかにも わたしのかわいい娘…

かぼす 2019

9月の終わりに 大分からかぼすが届いた。 今年のかぼすは いつになく大きさも色も整っていて、とてもきれいだ。 包丁で割ってみると、 みずみずしい果汁がたちまちあふれだす。 口にふくむと、舌を伝って、 顎の付け根から耳の穴に向かって、 酸味が走り抜…

声楽公開レッスン2019 ウィリアム・マッテウッツィ

去年につづき今年も ウィリアム・マッテウッツィ教授の 声楽公開レッスンを国立音楽大学で聴いた。 高田馬場から西武新宿線の急行で 玉川上水駅へ向かうこと約40分。 9月末の気持ちよい行楽日和で、 向いの席の足元にはトレッキングシューズが3足、 心躍る…

携帯電話を替える

9月は太陽の傾きをよく感じる月だ。 夏に空高くを描いた太陽の通り道は、 いつの頃からか徐々に高度を下げて、 気づけば斜めに、窓から暮らしの中へと差しこんでくる。 天頂から燦燦と降り注ぐ夏の光線とはまた別の、 透明度の高いまぶしさが印象的な季節だ…

NEUE STIMMEN 2019 in YOKOSUKA

残暑のつづく9月の初めに 世界オペラ歌唱コンクール「新しい声2019」の 公開オーデション2日目をみに横須賀芸術劇場へ行った。 品川から京急線にのりかえておよそ1時間、 クラシックなえんじ色の電車の車窓から、 三浦半島の風景をものめずらしく眺める。 だ…

夏の札幌-後編 鈴木康広展

昼前から雨が降り出した札幌。 霧のようなものかかって薄暗い。 ホテルで傘をお借りして、 路面電車で図書館へ向かう。 館内は広々としてゆとりがあるので、 本もゆったりと棚に収まっているようにみえる。 本の背に目を泳がせる楽しさや、 その陳列からの予…

夏の札幌-前編 植物園

お盆にやってきた台風の後を追うように 北海道の札幌へ行き、数日滞在した。 東京の蒸し暑さから一転、 からっとした過ごしやすい空気に、ほっと一息。 朝晩や雨の日は肌寒いくらいで、 長袖をはおったりぬいだり。 よく晴れて気温が高い日も、 汗ばむことは…

詩 せみ

ぽつぽこ ぽつぽこ 地面に空いた ふしぎな穴 あたり一面 あちこちに ひとさし指と 同じくらいの ブラックホール 小枝をさして ごめんください けれどももう 誰もいない ナイーヴな あなたたちは お月様だけが みているときに こっそり 這いだして しずかに …

梅雨曇りの7月

2019年の7月は 梅雨らしいお天気が長く続いた。 日照時間もずいぶん少ないという。 盛夏のぎらぎらとした日照りを思えば、 湿度が高く蒸々していたとはいえ、 ずいぶんと過ごしやすい7月だった。 ちょうど10年前の2009年も、 概して涼しい夏だったこと思い出…

詩 うみとそら

ひろいうみをみると あおいそらを思い出す ふねは うみの鳥 世界をつなぐ うみを飛ぶ 光の届かない 海底では 宇宙の音がきこえる ひこうきは そらの魚 世界をむすぶ そらを泳ぐ はるか 彼方には 漆黒の宇宙がひろがる いつしか人は 言葉を発明し 天と地を 分…

からすの子ども 梅雨に入る

先日はじめて からすの子どもに出会った。 ちょとした買い物に 江東区は門前仲町の商店街へ向かう道すがら、 歩道のうえを黒いものが ぴょんぴょんと跳ねていた。 うさぎほどの大きさの2本足の鳥が、 よちよち前進したり佇んだりしている。 傍らの街路樹には…

詩 泰山木

もくもく まっしろ そらにうかぶ くものような たいざんぼくの おおきな花 まるで 樹上の蓮の花 きよらかに たいぜんと 梅雨のすこし前に 咲きはじめる 傍らには しろつめ草 くちなし 白あじさい みな 純白のしあわせに染まる 6月の花嫁のよう 露にぬれて …

パソコンを買い替える、川崎の事件

5月の中旬にパソコンを新調した。 先代とは2011年10月から、 およそ7年半の付き合いだった。 その間にWindowsは7から10になった。 パソコンの寿命はよくて5年程ともきくので、 よくがんばってくれたという労いの気持ちでいっぱいだ。 さすがに最晩年は、 起…

詩 青むし

5月のある夜 音楽の流れる スピーカーに 小さな青むしが はりついていた もしかすると 音楽がすきな 未来の蝶かもしれない 思いがけない ちいさななかまと 流れる音に 耳を澄ましていると ゆらり ふわりと あたたかくも すずやかな 夜風が カーテンを揺らし…

令和 元年

明日5月1日より元号が 平成から令和になる。 今回2019年の改元は、 元号が一世一元に定められた明治から 大正・昭和・平成への代替わりとは異なり、 天皇陛下の生前退位に伴うものだ。そのため、 巷では令和の印のはいった煎餅や饅頭を見かけるなど、 時代の…

詩 そら

木立のレースにかこまれた 土色のグラウンドに 空たかく たかく蹴りあげられた サッカーボール その行方をみつめる 3歳のあどけなき少年は つぶやいた お空がわれちゃうかとおもって びっくりした そうだ お空がわれたらどうなるの ときいてみると がらがら…

大分へゆく

4月の上旬、 九州の大分へ旅をした。 大分市の中心街に1泊、 そこから電車で1時間ほどの湯布院に1泊の、 小さな旅だ。 羽田から大分空港への約90分の空の旅は、 まるで絵巻物をみているようだ。 広い関東平野を後に、シンボリックな富士山を見つつ、 静岡や…

さくら日和

東京は今週末、桜の見ごろを迎えている。 また寒さが戻ってきたので、 花も長持ちして、しばらく楽しめそうだ。 3月の上旬はずいぶん春めいた日がつづき、 家のベランダの啓翁桜/けいおうざくらは いつになく早々と咲きはじめた。けれども、 そろそろ満開の…

さくら 2019

ベランダの鉢植えの 啓翁桜/けいおうざくらの花がふたつ咲いた。 昨夜からぱらぱらと降り始めた雨は、 朝方にはしっかりした雨足になり、 今朝もしずしずと街に降りつづいている。 春の雨はなんだか音がないように静かだ。 ここのところ、晴れたり降ったり…

パンつくり

日に日に春めきつつある如月も後半、 空気の乾燥もずいぶんやわらいで、 夜半に空高くのぼった月は、この時期ならではに、 ぼんやりと霞がかった光が幻想的だった。 そんな或る日、お店で酒粕をみつけて、 思い出したようにひさしぶりに 酒種酵母のパンをつ…

ゆきがふる

今日は東京に雪が降っている。 朝方から粉雪が降りはじめ、しばしの休止をはさみつつ、 ぱらぱらと、ときおり本格的に舞ったりと、 表情をころころ変えながら、空はいつになく、 ライトグレーの分厚い雪雲に覆われている。 今季の東京の初雪は、 気象庁の発…

皇居参観

成人の祝日のあたりに、 はじめて皇居の一般参観に参加した。 その日は寒くお天気も不安定だったけれど、 午前と午後に一回ずつ設けられている一般参観の、 参加した午後の回には、おそらく300人近くが集まっていた。 東京駅の西方、皇居の東側の桔梗門付近…

卒業試験公開演奏会

お正月の三が日が明けてすぐ、 上野の音楽学校の奏楽堂で行われた 卒業試験公開演奏会を聴いた。 12月から冬休みをはさんで1月いっぱい行われている 音楽学部の卒業試験公開演奏会は、 年明けすぐの2日間に、声楽科55名の 卒業試験を兼ねた演奏会が行われ、 …

音楽の冬期講習会

クリスマスの時期に4日間、 音楽学校の冬期講習会を受講した。 講義は連日9~12時の3時間に行われ、 大学受験をひかえる高校生たちをメインに、 数人の社会人がまじった25名前後で、 ソルフェージュと楽典を勉強した。 声楽を勉強していくなかで 必要を感じ…