佐賀町日記

林ひとみ

詩 せみ

ぽつぽこ

ぽつぽこ

 

地面に空いた

ふしぎな穴

 

あたり一面

あちこちに

 

ひとさし指と

同じくらいの

ブラックホール

 

小枝をさして

ごめんください

 

けれどももう

誰もいない

 

ナイーヴな 

あなたたちは

 

お月様だけが

みているときに

 

こっそり

這いだして

 

しずかに

殻をぬぎすてる

 

やがて

 

はじめての

太陽がのぼれば

 

存分に

光を浴びて

 

充分に熟した

いのちは

 

ひとりでに

歌いはじめる

 

バイオリンと同じ

空洞のボディーは

 

ほんとうによく 

音が響く

 

名歌手のレゾナンスも

お手のもの

 

わたしは

緑児の喃語

知りたいように

 

あなたたちが

何を歌っているのか

知りたい

 

けれども

きっと

 

期待するような

意味はない

 

だから

わたしは考える

 

ひょっとすると

あなたたちは

 

土の彼方に

累々とねむる

 

聖なる死者

 

地上の光と闇の

コンセプトを知り尽くし

 

わたしたちを

わたしたち以上に

愛することのできる

 

清められた魂たち

 

いつの日か

わたしの身体が

 

炭素に分解されて

地へ還ったら

 

あなたたちのように 

再び土のなかから

 

ぽつぽこ

ぽつぽこ

 

とうまれでて

 

おなじみの歌を

力いっぱい

うたうでしょう

 

かつての生者は

きっと皆そのように

 

地球に生きることの

奇跡を告げる

 

使者となるのです