佐賀町日記

林ひとみ

赤い月

きのうの夜

赤い月をみた

 

雲のほとんどない

ブルーブラックの夜空

 

星がいくつか

輝いている

 

大きいの

小さいの

 

東の低いところに

黄金色の満月も

 

18:09

だんだん

月が欠けはじめる

 

そのすこし前から

大気がゆれはじめ

風もぴゅうぴゅう

 

月のまわりの

青白い光が

 

ろうそくのように

ゆらめいている

 

月と地球と太陽が

直列をはじめると

 

ぴたり

静かになり

 

左下から

欠けてゆく満月

 

じわりじわり

食べられてゆくよう

 

19:16

皆既食がはじまった

すこし前から

月は赤銅色に

 

ふしぎふしぎ

とくべつな色

 

同じ空を

太古に見あげた祖先たちは

何を想ったろう

 

動物や植物たちにも

みえているだろうか

 

南東の高くへ

赤褐色の月が

のぼってゆく

 

20:42

ふいに

皆既食はおわった

 

左下の

欠けはじめたところから

 

月がうまれてゆく

新しく

 

秒針が左回りに

巻き戻されて

 

21:49

何ごともなかったかのように

満月は

 

シャンパンゴールドに

うかんでいる

 

まるで

夢をみたよう

 

なんて素敵な夢でしょう

 

いっせいのせい

 

みえない遠くで

天王星

 

神隠れしたのだとか