佐賀町日記

林ひとみ

夏の札幌-前編 植物園

お盆にやってきた台風の後を追うように

北海道の札幌へ行き、数日滞在した。

 

東京の蒸し暑さから一転、

からっとした過ごしやすい空気に、ほっと一息。

朝晩や雨の日は肌寒いくらいで、

長袖をはおったりぬいだり。

よく晴れて気温が高い日も、

汗ばむことはほとんどなかった。

 

札幌の町は、きれいな碁盤目を描いている。

明治のはじめに開拓使として指揮をとった

島義勇/しまよしたけが、西に位置する

小高い円山/まるやまから平野を見渡して、

街づくりの構想を練ってからおよそ150年。

札幌は当初から行政の中心地だったそうだが、

かつては港町である函館や小樽のほうが

人口も多く栄えていたという。

一方で古くから蝦夷/えぞとよばれた

アイヌ先住民族の土地でもある。

遡れば縄文時代、さらには旧石器時代にも

人が住んでいた形跡があるそうだから、

歴史の深い土地に築かれた、

比較的新しい街といえるだろうか。

 

開拓の父ともいわれる島義勇

九州佐賀藩の出身ということで、

江東区佐賀町からやって来た私には、

かすかな縁を感じられた。

 

駅からほど近い

北海道大学の植物園を散策する。

ぐるっとまわれば1時間ほどの広さで、

気の向くままに足をすすめる。

土の上を歩くのは心地よい。

フェンス越しに車の往来が絶えないなか、

緑の王国とよべそうな別世界が広がっている。

一部には開拓当時からほとんど手を入れていないという

自然林も保存されていて、薄暗く鬱蒼としているような、

端正でさっぱりとしているような、不思議な雰囲気。

ハルニレ/エルムの巨木に見とれたり、

木陰の芝生に腰をおろしてぼおっとしたり、

バラとあじさいの花のコントラストを楽しんだり。

はまなしの朱色の実がプチトマトに似ているとか、

マリンブルーのとんぼに話かけてみるだとかして、

時間を忘れてたわいのないことを楽しんだ。

ときどきすれ違う来園者たちも、

みな平和で穏やかそうにみえる。

なぜか植物園では欧州系の外国の方によく出会う。

この日はフランス語のなめらかな会話が

爽やかな風とともに耳をくすぐる。

 

園の外れに差し掛かると、ふと樹々の奥から、

小刻みにギギギとジジジの中間のような、

不思議な音が聴こえてくる。ゼンマイみたい。

そんなとき樹上で枝の折れる音がすると、ひやっとする。

音の方向へ目を凝らすと、

ほど高い樹洞の入口に、リスがいた。

両手で木の実を抱えて齧っているようだ。

絵本そのままに、しっぽをくるんと後頭部にのせて可愛らしい。

でも走ると実に素早く、思ったよりカラダも大きい。

食事中にごめんなさい、

あなたに会えてとてもうれしいわ。

博物館でみたところによるとエゾリスらしい。

「なんと呼ばれようと分類されようと

 わたしたちには関係ないのよ、

 わたしたちはただ生きているの、

 それ以外なにもいりません」

といってるような気がした。

 

何度か訪れているけれど、

何度でも訪れたい札幌のサンクチュアリです。

 

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