佐賀町日記

林ひとみ

かぼす 2019

9月の終わりに

大分からかぼすが届いた。

 

今年のかぼすは

いつになく大きさも色も整っていて、とてもきれいだ。

包丁で割ってみると、

みずみずしい果汁がたちまちあふれだす。

口にふくむと、舌を伝って、

顎の付け根から耳の穴に向かって、

酸味が走り抜けていく。

力強いすっぱさに、目が覚めるようだ。

 

寒暖のめまぐるしさからか、

小さな風邪をひいたので、

丸絞りにして、はちみつをたっぷり入れ、

湯を注いでレモネード風にして飲む。

のども身体も温まり、心なしか元気がわいてくる。

 

東京は今年、とりわけ大きな台風、

15号と19号がやってきた秋だった。

重陽の9月9日と、10月12日の、

どちらも夜だったが、平日ではなく、

日曜と土曜の夜だったので、とくに都内では

混乱や被害が最小限に抑えられたのではないかと思う。

それにしてもものすごい風と雨に、

集合住宅も心も揺れた、緊迫した夜だった。

特に19号は、防災行政無線のアナウンスがあったり、

携帯に緊急避難勧告の通知がはいったりと、

只ならぬ気配だった。住んでいる江東区の東部、

荒川流域の方々は避難所に集まっている様子。

我家のすぐそばの隅田川は大丈夫だろうか、

窓からみえる割掘の水位が高くなっていくのを、

ただただ眺めるばかり。家にテレビはないのだが、

こういうときラジオで情報を確認できることは、

かけがえのないことだと改めて思った。

21~22時にかけてのピークをやり過ごし、

頭上の台風通過はおおよそ確認でき一息つけたが、 

依然として各地の危機が刻々と報道され、

興奮冷めやらぬ長い夜を過ごした。

 

翌日は台風一過、よく晴れたが、

交通や公共施設、コンビニや商店などの

都市機能はほとんど停止していた。

 

月並みだが、日常の有難さが

身に染みるようだった。

 

そうしてすこしづつ街は平常を取り戻し、

忙しさのあまり、

台風のことも忘れてしまうのだけれど、

大きな被害に遭われて今回の台風を忘れられない方々が

たくさんいることは、忘れないようにしたい。

 

私の小さな風邪は、まだ身体を通過中で、

今日もくしゃみが続いている。

かぼすのレモネード風を飲んで、

身体と心を養って、今年もあと2か月、

元気で活動できますように。

 

 

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