佐賀町日記

林ひとみ

高尾山

心地よい秋晴れの日、

東京八王子市の高尾山に登った。

高校1年生のレクリエーション行事で登って以来、

とても久しぶりの高尾山。

行楽地と霊山という二面性をもつ魅力的な山で、

ひとりでも道迷いの心配がないのがうれしい。

 

浜町から京王線直通の都営線に乗っておよそ75分。

平日の通勤ラッシュになるべく重ならないように、

すこし早めに出て、8時に高尾山口に着く。

新米のおむすびを食べてストレッチをし、

稲荷山コースの尾根道を登り始める。

7つあるコースのうち、

しっかり山登りできる唯一のコースときく。

次第に自動車などの生活音から遠ざかり、

樹々と鳥とどんぐりの落ちる音くらいになってゆく。

安心して感覚をひらいてゆく。

時々ぽきっと枝の折れる音がする、

なにか小動物がいるのかも。

こちらの様子をうかがっているのかしら。

息切れせずに歩きつづけられるペースを

確かめながら進むうちに、体が軽くなってきて、

あっという間に山頂599mに着いた。

思ったより早く、3kmを60分で、まだ9:30。

雲に隠れて富士はみえない。

またおむすびをひとつ食べて、

その奥の小仏城山/こぼとけしろやままで、

行ってみることにする。

 

それがひょんなことから、

道中で知り合った女性との二人旅になった。

高尾山頂の手前でお会いしたクミコさん、

同じペースで後ろをずっと歩いてらしたので、

自然と話かけたことから、なんとなく。

でも彼女は山頂からすぐに下山する予定で、

私はその先へ足をのばすことを考えていたので、

山頂に着いたところでさよならしたのだが、

どういうわけか分岐点でまたばったり。

驚いたついでか、じゃあご一緒します!といって、

あらためてその先をふたりで歩き始めた。

 

きけばスキーのインストラクターをされている方で、

後から私の歩き方をみて、

左の足の運び方がちょっと変で、

ひざに負担がかかっているから、

こういうふうにしてみて、と教えてくださる。

言われてみれば思いあたることがちらほら。

たとえば高校生までしていたスキーで、

左のターンがしにくかったこと、

中学のバレーボールの部活で捻挫して、

左足首の靭帯が伸びてしまっていること、

骨盤の左側に捩れがあって神経を圧迫していると

整体の方に指摘されたことなど。

クミコさんはスキーで足を粉砕骨折されて、

しばらく車椅子の生活を余儀なくされ、

歩く練習を一からはじめたご経験があるそうだから、

人の歩き方が手に取るようにわかるらしい。

 

そんなお話をしつつ、草花を愉しみつつ、

60分で小仏城山の山頂670mに着いてみると、

高校生の頃の記憶そのままの山小屋に、

あのときここまで来たんだ!と、感慨深い。

四半世紀ほど経っているのに覚えていること、

山小屋がほとんど変わらないこと。

あの時は確か相模湖の方へみんなで降りた。

11時すぎだったのでおむすびをまた食べて、

この日は、来た道を高尾山へ戻り、

私は沢沿いの6号路を、クミコさんは稲荷山を、

それぞれ下山した。別れ際に交換したLINEで、

帰りも同じ14:28発の電車に乗っていることが判明し、

5号車から1号車へ来てくれて、

来月は小仏城山のその先へ行ってみよう、

ということになった。

 

きれいなすすきの原。赤紫のあざみ。

ターコイズブルーの大きな蝶も。

白いサラシナショウマのよい香り。

沢沿いにきのこが群生して妖精がいそう。

妖精に会ってみたい。