佐賀町日記

林ひとみ

名月 川苔山

今年の旧暦8月15日、

中秋の名月奥多摩でみた。

登山のために滞在していた宿の広場から、

稜線の向うにかかる満月を見上げた。

 

はじめのうちは厚い雲に覆われて、

とても見えそうにないと思えたけれど、

噓のように雲がひき、はっきりと見えたときには、

喚声と拍手があがり、まさに感動的だった。

はじめの雲は演出だったのかしら。

とても大きくてエネルギーに満ちている、

ずっと見ていられるやわらかい金色の光。

 

そして20倍率の望遠鏡でみてみると、

はっきりと月面がみえ、透きとおるようで、

びっくりするほど美しかった。

脳の神経回路が新しく組み換えられるよう。

 

月の左下方に輝く木星は、あかるい橙色で、

60くらい発見されているという衛星も

3つはっきりとみえたし、

月の右手にひかえめに光る土星は、

赤茶色で楕円形の輪の輪郭もよくみえた。

 

はじめての天体望遠鏡の世界、

星ってこんなにきれいだったんだ。

小さな子どものうちに見ていたら、

世界の見方が変わるのではないかしら。

学校のカリキュラムにあったらいいのに。

神秘的。美ということ。

 

翌日は、心地よい秋晴れのなか、

川苔山/かわのりやま1363mへ登った。

細倉橋の登山道入口640mから、

川沿いを幾つかの滝や橋を楽しみつつ登り、

すこし険しい岩場をすぎて、尾根道を山頂へ。

お昼時で50人くらいはいただろうか、

みんなシートを広げて息ついて朗らかだ。

傍らを大きなトカゲが這ってきて、

ぬるぬるした灰色の30㎝くらいの容姿にびっくり。

気をとりなおして、おむすびをぱくり。

いくつかコースがあるなかで、

鳩ノ巣駅426mまで下る長い道のりも、

ゆっくりとしたペースで、足の負担も軽かった。

この時期お花はほとんどみられなかったけれど、

奇妙な鳥の鳴声や、尾根にでたとたんに吹いてくる風、

不思議な青白い石や、きれいな菱形に割れた黒い石、

広葉樹林帯の明るい緑色が、印象に残っている。

 

1/25000の地形図に斜めの磁北線をひいて、

コンパスから方角を導き出す方法を覚えたので、

また山へ行ったとき試してみよう。

楽しみだ。