佐賀町日記

林ひとみ

春がきた

今日2月3日は立春だ。

透きとおる春の日ざし。春がきた。

立春は4日か5日のことが多く、

3日というのは124年ぶりだそう。

 

1897/明治30年というと日清戦争のすぐあとだ。

当時の帝国日本は朝鮮半島などの領土をめぐり、

衰退に傾きはじめた清王朝に勝利し、

その勢いを得てというか混乱に乗じてというか、

日露・日中・大東亜の戦争へと突き進んでいくことになる。

兎にも角にも領土を拡大・支配することが大命題だった時代。

江戸末期に鎖国が解けて、明治の文明開化を経て、

ほんとうにびっくりするくらい西洋化してゆく日本。

中世の戦国時代のグローバル版ともいえそうな世界地図。

そうしたなかでも人々の日々の暮しは営まれている。

静かだけれどもしっかりと、確かに続いているものもある。

 

立春の前日、昨日2月2日の節分は、

豆まきはしなかったけれど、煎り豆をいただいた。

昔ながらのおせんべい屋さんのお豆は、

香ばしいきなこの味がしておいしかった。

ウイルスに翻弄されたこの1年、

「鬼は外、福は内」とはなんだか言いにくい。

鬼とはなんだろう。

わたしはウイルスよりも人間のほうが場合によってはこわい。

 

2月7日までの予定だった緊急事態宣言が、

1か月ほど延長されることになった。

効果が目にみえるようになるまで、

感染者数が減少傾向に転じるまで、

すこし時間がかったけれど、確かに有効のようだ。

とはいえダメージもとても大きい。

国民には国や社会の全体像がみえにくいし、

為政者には国民ひとりひとりの生活がみえにくい。

全体も個人もどちらもよく認識して理解できたらいい。

個人的にはごく些細なことだけれど、

宣言の影響を感じることがあったといえばあった。

 

わたしはうたの練習を家でしている。

賃貸の集合住宅だけれど、

たまたま角部屋で両隣がなく、気密性も高いので、

窓を閉めきればそれほど音も漏れずに練習できていた。

夜は避けて1~2時間ほどなので、苦情は8年間なかった。

ところが今回の2度目の緊急事態宣言が発令されてすぐ、

管理会社の方から連絡があり、

階下の方から相談があったということだった。

「歌をうたってはいけないという決まりはないのですが、

 柱や床を伝わって歌声が聞こえてくるとのことでしたので、

 テレワークの要請もあることですし、ご配慮をお願いします」

とのことだった。その数日前にうたっているときに

どんどんという音がしていたのは、そういうことだったのか。

そうして心もち音量と時間を気にしながら練習している。

ちょうどMezza Voce / メッツァ ヴォ―チェ、

半分の声・柔らかい声を練習する必要もあるので、

これをよい機会としよう。

 

透きとおる春の日ざし。春がきた。

春のうたは、声を張りすぎずに、

やわらかくやさしく歌いたい。

まだ難しく感じるけれど、

話すように歌えたら、歌うように話せたら、

とてもいいな。