佐賀町日記

林ひとみ

日の出山 御嶽神社

12月の中旬、

寒波がやってくる直前に、

奥多摩の日の出山へ登った。

 

いくつもあるルートのなかから、

御岳山からの尾根道づたいに日の出山へ、

梅ノ木峠をこえて、三室山845mに寄り、

愛宕神社奥の院を経て、吉野山園地へ降りるコースを辿った。

 

12月とは思えない暖かさと晴天に恵まれて、

朝9時前にケーブルカーで御岳平まで運んでもらい、

脚ならしに大塚山920mを周回して、

産安社や御嶽神社へご挨拶。

はじめてお詣りした御嶽神社929mは、

天空の社という雰囲気で、

拝殿からは関東平野が望めて見事だった。

この日は霞がかっていたけれど、

スカイツリーや江の島もよくみえるのだという。

もともと南向きだった社殿を、

徳川家康公が「西の護り」として東向きに改築したというから、

古くから重要な神社だったことがうかがわれる。

その起源は神話のころ、

第10代の崇神/すじん天皇の頃というから、

紀元前1世紀頃とも古墳時代3世紀頃ともいえるほど歴史が深い。

狼の神様が「おいぬ様」として慕われていて、

たくさんの犬たちがお詣りに来ていて、可愛いだけじゃなく、

ものすごく強そうな犬もいて、けっこう怖い。

この日は遙拝殿から奥の院へご挨拶をしたけれど、

いつかまたその向うへ訪れたいと思う霊山だった。

 

江戸時代の中頃までは、

御嶽神社への表参道だったという尾根道を辿り、

日の出山902mの頂へ。

360度の展望をもつ見晴らしのよい山頂は、

お昼時ということもあり、多くの人で賑わっていた。

お友達同士で来ている女学生、

シートをひろげて鍋をかこんでいる社会人風、

ボーイスカウトの少年たち、家族連れ、恋人同士、

独りの人も、ストイックなトレイルランの人も、

ほんとうに色々なひとたちが憩っていた。

わたしも、おむすび・あんぱん・バナナの昼食をとる。

遥か向うに、さっきまでいた御嶽神社がみえる。

ガイドさんと15人の仲間たちと歩いてきた道のりを思う。

大地がゆらゆらっと揺れる。地震だ。

山頂での体験は初めてで新鮮だった。

不謹慎かもしれないが、自分が楽しいものだから、

山も生きていることを喜んでいるように思われた。

動くとは生きていること。

 

その先も、いろいろな植物をみながら、

思いつきを話しながら、

一期一会の方々との山道を楽しんだ。

 

杉の枝が落ちていて、

葉先に黄色のつぼみのようなものがついているのを、

わぁきれいと見とれていたら、花粉だと教えてもらったり、

スギとヒノキとサワラの葉っぱの違いとか、

ミズナラとコナラの落葉やどんぐりの見比べとか、

緑色のアセビの葉っぱは毒があるので

馬が食べると酔うより死んでしまうとか、

それで水原秋櫻子の俳句結社「馬酔木」を思い出したり、

蠟梅のふっくらしてきた黄色のつぼみを楽しんだり、

鳥の鳴声、熊よけの鈴、猟銃の音、チェーンソーの音だとか、

とりとめもなく、いろいろな事象が、外側でも内側でも、

雲のように浮かんでは流れてゆく。

その流れをただみている。過ぎさってゆく。

ひたすら歩きつづける。前にすすむ。

そういうことが訳なく楽しい。

 

わたしは一体どこへゆくのだろう。

 

そうして一日を終えて、

東京の西から東へ。

家へ辿りつく。

 

楽しかった。

という想いがのこる。

暖炉の薪のように積まれてゆく。

 

だから冬でも、

寒波がやってきても、

心はあたたかい。

 

2021年もあとわずか。

一日一日を大事に過ごしたい。