佐賀町日記

林ひとみ

高水三山

10月に入ってしばらくすると、

気温が急に下がり、とても寒くて、

あわててセーターやダウンを羽織った。

大げさかなと思いつつも、

風邪をひきたくないので、

カイロや湯たんぽも。

きけば12月の気温だったという。

家の窓からみえる公園の大きな樹も、

茜色の帽子をかぶったように、

うっすらと紅葉し始めている。

 

そんな寒さと雨模様を心配しつつ、

奥多摩と青梅の境にある高水三山へ登った。

高水三山/たかみずさんざんは、

高水山759mと、岩茸石山/いわたけいしやま793mと、

惣岳山/そうがくさん756mの、

3つのピークをもつ登山コースで、

高低差550m、距離10km弱、コースタイム約4時間の、

ほどよく登りがいのある人気の山。

 

山登りのイベントでお会いした

アキさんというお姉さんと、

意気投合してはじめてご一緒した登山は、

気の置けない、とても楽しいものだった。

夕方からお天気が崩れるという予報で、

少し早めに青梅線軍畑駅で待ち合わせ、

登山道入口を9時前に登り始めた。

しばらく川沿いを登り、きらりと光る石を拾ったり、

すすきの群生をトトロの気分でかき分けて、

不思議な鳥の鳴声を楽しんだり。

ひとつめの山頂の手前にお不動さんを祀った

常福院という立派なお寺があり、行程の無事を祈る。

10時前にこじんまりした高水山頂に着き、

そのまま尾根道を岩茸石山へ向かう。

この尾根道でとても印象的だったのは、

片側の斜面は、スギやヒノキの人工林で、

もう片方の斜面は、自然のままの森林で、

木の種類のせいか、その明るさが全く異なること。

曇空だったけれど、

天然林では葉が陽光を透かしてきらきらと、

あるいは光合成のために発光しているようにもみえる一方で、

植林されて整然とした森は、暗くどんよりしていて、

これはどういう訳だろう。

そんなことを話しながら、岩のごつごつした急登を登り、

10時半前に、ふたつめの岩茸石山の山頂に着くと、

少し早めか遅めかの食事をとっている人が5組ほど。

かなり汗をかき消耗したので、

わたしもおむすびとあんぱんをひとつづつ。

見晴らしがよく、曇り空にもかかわらず、

スカイツリーや都心の高層ビル群がよくみえた。

つい先ほど歩いたきれいな三角形の高水山もすぐそこに。

それから多少のアップダウンを繰り返しつつ、

みっつめの惣岳山には11時半頃着き、

どうしてかフェンスで囲まれている

木彫の美しい青渭神社・奥ノ院/本宮に手を合わる。

かつて霊泉の湧いたという青渭の井を過ぎ、

降り道の杉林をすいすい進むのはとても愉快。

途中で、判読のむずかしい木の看板と、

ぼろぼろのしめ縄のかかっている御神木が、

3本トライアングルに並んでいた。かなりの大木で、

先端はかろうじて生きているようだけれど、

根元や幹はほとんど枯れているようにみえる。

杉だろうか、どうしたのだろう。

幹に触れて、合掌をして、先へ進む。

終盤の分岐で、御嶽駅への定番の道でなく、

沢井駅へ降りる道を選ぶと、登山道を出てすぐ、

先の青渭/あおい神社の里宮/遙拝殿があり、

無事に下山できたことをご報告、感謝した。

崇神天皇のころに起源をもつという古い神社らしく、

狛犬は珍しく、口をあいている阿ほうに、

子どもの狛犬が寄り添っていて、ほほえましい。

まだ12時半頃だったので、

青梅線の線路と青梅街道を越えて、

多摩川の河原におり、お昼を食べた。

清流の和音、苔の匂い、丸い石の上に、

ごろんと寝転んでみると、背中にじじじじと、

地球のバイブレーションを感じるよう。

河口から70kmの地点という。

 

アキさんと次はどこの山にしようと相談しつつ、

清酒澤乃井で名高い小澤酒造さんでお土産を選び、

沢井駅14時半すぎの電車で、

江東区の自宅についたのは16時半。

ちょうど雨が降りだした。

 

からだ全体をつかって疲れているのに、

どうしてか元気になって帰ってくる。

山の不思議な力です。