佐賀町日記

林ひとみ

映画2本 大みそか 2021

今日で2021年もおわる。

みそかは、俳句の季語で、

大年、大つごもり、という言い方もあるし、

それぞれの郷土の方言とか、古語などにも、

まだまだ知らない表現がたくさんありそうだ。

わたしは「大年・大歳/おほどし」がなんとなくいい。

365日の最後の1日という感じがするし、

1年が充実していたという雰囲気も感じられるから。

 

日本語はとても豊かだ。

その言葉とともに生きてきて、

まだまだその地平線は彼方という印象。

 

12月はめずらしく映画館で2本の作品を観た。

ひとつは「五十万人の遺産」/1963年、

もうひとつは「世界で一番美しい少年」/2021年。

 

「五十万人の遺産/LEGACY of the 500,000」98分は、

三船プロの第1作にして、三船敏郎の幻の監督作品だ。

ずっと観たいと思っていたところ、

通りかかった京橋フィルムセンターでの特集上映をみつけて、

上映日がちょうどクリスマス・イブの夜だった。

よほど観たい人しか集まっていないのではと思ったが、

まばらな客席にはやはり年配の男性が多かった。

三船敏郎は同性に愛される俳優なのだろうか。

戦争末期のフィリピンに隠された日本軍の金貨を探し求めて、

さまざまな野心を内に秘めた5人の男たちが繰り広げる大冒険で、

もちろん三船敏郎は主役も演じていて、

さながらオーケストラを指揮しながら演奏するソリストだ。

といっても脚本もカメラも音楽も俳優たちも、

黒澤組の勝手を知った仲間たちという雰囲気で、

評判がよくないわりに、とても楽しく見応えがあった。

日本ではVHSになっているだけだけれど、

なぜかフランスでDVDになっているようなので不思議だ。

やっと観ることができてよかったし、

わたしにとっては印象深い聖夜になった。

 

「世界で一番美しい少年/Most Beautiful Boy in the World」98分は、

トーマス・マンルキノ・ヴィスコンティの「ヴェニスに死す」で

美少年タジオを演じた当時15歳の俳優ビョルン・アンドレセン

壮絶な半生を綴るドキュメンタリー。

1971年の公開から50年にあたる今年2021年に発表された、

美しくも哀しい再生の物語だ。

音楽学校で学んでいた、複雑な生い立ちをもつ繊細な少年が、

なすすべもなく運命に翻弄されてゆくのを、私たちは追体験することとなる。

その背景には、幼いころに母親が不審死したこと、

自分の父親が誰なのかを知らないことが影響しているのは、明かだ。

穴がぽっかり空いたままの若い心に、予想外の成功がやってきて、

どう対処すればよいか、助けてあげられる人がいなかったことが辛い。

また当時の日本の広告業界の一端を目の当りにすることとなり、

恥ずかしいやら申し訳ないやらで居心地がわるかった。

スウェーデン映画の映像の特異な美しさは、

地理的なその光にたいする感受性のためだろうか。

アンドレセン氏の澄んだ眼が、とても印象的だった。

子どもの目と似ているけれど、

子どもの目にはない何かがそこにはある。

それはなんだろう。

 

たとえば2021年、

元旦のわたしと、

大年のわたしとでは、

どこがどう異なるだろう。

できたこと、できなかったこと。

わかったこと、わからなかったこと。

どちらもあるけれど、充実していた。

心からとても楽しかった。

 

ありがとう。

来年もよい年でありますように。

 

 

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