佐賀町日記

林ひとみ

地球交響曲 第九番

7月5日、今年はじめて

上野でせみの鳴声をきいた。

梅雨らしい湿度の高い日が続き、

涼しいような、蒸し暑いような。

何年も土のなかに生きるセミにとって、

地上へ這い出すのは一種のカタルシスだと思う。

ところが一番乗りでまだ仲間が見当たらず、

あれ?どうやって鳴くの?と思ったかどうか。

ねぼけまなこに声があつまらず、

何ともいえぬ、ぼわんとした声で鳴いている。

おわりのあじさいもまだちらほら、

色褪せて枯れかかっているのも、きれい。

 

7月7日、七夕の日に

映画「ガイアシンフォニー地球交響曲 第九番」を

東京都写真美術館のホールで観た。

朝、隅田川を渡って駅に向かうとき、

いつもならそこにあるはずのスカイツリーが、

厚い雲にかくれて全く見えない。

スカイツリーのないパラレルの東京にいるようで、

不思議な感覚になる。

 

「GAIA SYMPHONY」シリーズは

NHK出身の龍村仁監督の企画・監督により

紡ぎ続けられているドキュメンタリー映画で、

1992年の第一番から、できたての第九番に至るまで、

息の長い、ライフワークともいえる作品群だ。

各分野のゲストスピーカーとともに、

その主題は一貫して、地球のいのちをみつめること。

今回みた第九番は、指揮者・小林研一郎さん、

認知考古学者・スティーヴン・ミズンさん、

生物学者本庶佑さんが登場。

絶滅したネアンデルタール人と、

繁栄をつづけるホモサピエンスについて、

生命の不思議や、音楽のよろこびなどについて考察しながら、

ベートーヴェン交響曲第九番の演奏会へ向けて、

とりわけ四楽章へ向けて、物語は集約されてゆく。

その筆致は、あまりにも無色透明、淡々としているため、

教科書的・優等生的なきらいがないわけではないのだが、

それを補って余るほど、感動的でもある。

会場では、今どき珍しいほど涙の音が聴こえてくるし、

わたしも何度もじーんとすることがあった。

なかでも子どもたちに観てもらいたい、得がたい作品群だ。

 

わたしがはじめて観たのは第四番/2001年制作で、

ラピュタ阿佐ヶ谷で特集上映がかかった2006年だったと思う。

それ以降、折々に、六番、三番、二番、七番、八番を観て、

いつか一番と五番も観たいと思っている。

DVDもリリースされているけれど、できればスクリーンで。

だから、クラウドファウンディングを募っていることを知ると、

心から「応援したい」という気持ちになり、

金額にすると僅かにすぎないが、エントリーした。

わたしにとってはじめてのクラウドファウンディングで、

その本質を知る、よい機会だったこともうれしい。

 

今年の七夕の短冊は、

ピースポールプロジェクトに倣って、

世界人類が平和でありますように」としよう。

 

織姫と彦星もきっと逢えたでしょう。