佐賀町日記

林ひとみ

声楽公開レッスン2023 ふたつ

今年の夏は特別に暑かったらしい。

35℃超の猛暑日が連続○○日とかで、

毎年どんどん暑くなるから、

あまり違いがわからない。

9月になってもだいたい暑くて、

でも蟬はいつのまにか、もういない。

 

ベランダの植物たちもくったりしているなか、

挿し木したバラはとても元気で、

野生種のような花を2つ、また咲かせてくれている。

まず萼/がくが、つづいて蕾がゆっくりひらいて、

うんとゆっくり時間をかけて朽ちてゆく、赤い花。

そのすべての変化が成長にみえてくる。

 

国立音楽大学で毎年公開されている、

といってもパンデミックをはさんでだけれど、

声楽のレッスンを聴講させていただいた。

ドイツ・リートの白井光子先生と、

ベル・カントのウィリアム・マッテウッツィ先生。

先生方が心から音楽を愛していること、

レッスンをとても楽しんでいることが伝わってきて、

なんてうれしい7日間。

 

おふたりの先生に共通していたのは、

自然な声がいちばんということだった。

自然というのは、

作った声、装った声ではなくて、

その人の本当の声、オリジナルの声、ということ。

でもそれを見極めるのは、それほど簡単ではなくて、

優秀な学生さんたちだから、

色々な歌い方がけっこうできてしまう。

その人の好みの声とか、理想の声とかに、

それなりに近づくことができて、

聴いていてもとても上手にみえる。

でも先生方にはすぐわかるようで、

一人ひとり異なるアプローチを辿って、

聴こえ始めた声には、ごまかしのない説得力と、

過不足のない美しさがあった。

声というひとつしかない楽器が、

次々とひらかれてゆく瞬間のときめきも。

今はメディアが発達して、手軽に、

本当にたくさんの演奏に接することができる。

そのこと自体はポジティブなことだとしても、

You Tubeで勉強しないでね、と、

おふたりとも繰り返されていた。

音楽が大すきな学生さんほど、

勉強のためというよりは、

ただただ好きで聴いてしまうのではと思ったり。

 

先生方に共通のテーマがある一方で、

異なるメソッドがあることも、とても興味深かった。

マッテウッツィ先生は、

ベル・カント400年の歴史を負うて、

マスケラの響きをとても大切にされていた。

一方、白井先生は、

学生の時にマスケラと習ったけど、

すぐにやめちゃった、とおっしゃっていた。

自分には合わないと思われたのか、

イタリア語とドイツ語の違いなのか。

とはいえ、よく開発された頭声を

大切にされていることに変わりはなかった。

 

ひとりひとり楽器がちがうから、

その奏で方も、美しさも、みんなちがう。

 

「その人の声でなければ表現できないこと、

 その人の想っていることでなければ表現できないことがあります。

 そしてそれが美しいと私は思っています。」

という内藤明美先生の言葉を思い出しつつ。

 /日本声楽家協会・オンライン研究会20230909

 

素敵なパフォーマンスを聴かせていただいて

どうもありがとうございました。涙も少し。

 

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