佐賀町日記

林ひとみ

馬頭刈山

お花見日和の日曜日、

東京の檜原村あきる野市にまたがる

馬頭刈山/まずかりやまへ登った。

 

武蔵五日市駅から藤倉行のバスにのり、

西へ25分、千足のバス停から登山口へ向かう。

7時過ぎに山仲間のアキさんと駅で合流し、

駅前のロータリーでバスを待つ間、

白米のおむすびを食べていると、

「おいしそう!」と声をかけてくださる方がいた。

きけば北千住からいらっしゃった御二方で、

やはり馬頭刈山へ行くという。

ふと視線を落すと、バス停の支柱の片すみに、

紫色の菫が一輪、咲いていた。

夏目漱石の有名な句、

 菫程な小さき人に生まれたし  漱石

について、アキさんと談笑。

大人物というのはそういうものよね、などなど。

 バス停に生くる菫のひとりかな  ひとみ

 

千足のバス停から、林道を30分ほど登り、

登山道入口へ入ったのは、8:30分頃。

体の声をききながら、ペースを配分。

あたたまってくると、

体がポンプのように感じられるから、楽しい。

昨日の雨で湿った山道を、川沿いにゆくと、

小天狗滝、天狗滝、綾滝の、3つの滝と出逢う。

それぞれ趣が異なり、至るところに咲いている

椿の赤い花と、響き合って美しい。

そそり立つ巨岩の岩穴に、

木洩れ日が差し込み、神秘的。誰かいそう。

見所のひとつ、つづら岩/951mまでの急登に備え、

どらやきをひとつ、滝つぼで食べる。

0.6kmを40分ほど、ゆっくり登ってゆくと、

尾根に悠大なつづら岩がそびえ立ち、

垂直の岩壁は40~50mほど、

ロッククライミングの絶好のゲレンデらしい。

とまれ我々は、後方のまわり道から、岩頂へ。

それでも気分爽快、見晴らしよく、都心もよく見渡せた。

鎖を頼りに、腹ばいになって崖下を覗いてみたが、

岩肌も何もみえない。怖くて体が震えるようだった。

つづら岩の分岐からは、大岳や御岳のほうへ

抜けることもできるが、この日は南東へ、

馬頭刈の尾根道を楽しく歩いた。

1時間ほどで鶴脚山/916mの小さなピークを通過、

さらに30分程ゆくと、馬頭刈山/884mへ到着。

ちょうど11時30近くで、昼食をとる。

おむすびをふたつ、甘いものも少し。

よく晴れているけれど、人は少なく、とても静かだ。

野鳥と一緒に、アキさんの参加した俳句大会の話をきいていると、

朝、バス停でお会いした御二方と、

やはり同乗されていたお一人の女性も、次々到着。

またお会いしましたね、とささやかな再会を楽しんだ。

12時頃下りはじめて、光明山/798mを過ぎ、

しばらく行った分岐を、瀬音の湯の方へコースをとる。

ほんとうに所々で山椿に逢う。

逢うたびにどきっとするほど、きれい。

咲いても、落ちても、清らかだ。

長岳/326mというピークとわからないピークを過ぎて、

秋川渓谷日帰り温泉・瀬音の湯の近くまで来ると、

別の大気圏に突入したように、蒸し暑い。

温泉の駐車場はずいぶん埋まっているよう。

 

登山靴を脱いで、屋外にある足湯に入る。

まだマスクをしている方が多いので、私もつける。

お湯はぬるいけれど、なめらかで心地よい。

先ほど山頂でお会いしたお一人の女性が、

温泉の方へまっしぐらに歩いていかれるのが、向うにみえる。

声をかけたかったけれど、名前がわからない。

直売所で、あきる野市で採れた春菊とブロッコリー

福祉作業所の柚子ジャム、五日市うどん、などを購入。

バスの時刻14:39に合わせて、近くの十里木のバス停へ行くと、

朝、同じバスに乗り、頂上でもお会いした、

北千住の御二方が、バスを待っていらっしゃる。

分岐を軍道のほうへ下りるコースをとられたそう。

お二人は月に2度ほどのペースで、

北千住からアクセスしやすい栃木や筑波方面の山へ行かれていて、

今回はじめて東京の西側に来てみたのだという。

偶然の出会いの楽しさ。淡さ。

 

16:30頃には江東区の自宅に着き、

ご飯を炊いて、夕食は冷凍のカレー。

あきる野の春菊を添えて。

山から帰ってくると、

味のしっかりしたものが食べたくなる。

楽しかった。ありがとう。