佐賀町日記

林ひとみ

大菩薩嶺

先日、山梨県の大菩薩に登った。

秩父多摩甲斐国立公園にある名山のひとつ。

 

山へ行くようになって

あちこちで耳にする「ダイボサツ」。

見晴らしいのよい山頂と、

森林限界をこえた亜高山帯の

みどり色の草原のなかを

なだらかにつづく稜線が美しい、

とても歩きやすい山だった。

 

いくつかコースがあるなかで、

今回は登りやすい標高1580mの

上日川/かみにっかわ・かみひかわ峠から、

唐松尾根を登って雷岩へ、

大菩薩嶺2058mにタッチして、

見所の尾根道を大菩薩峠1897mまでゆっくりと、

ぐるっとスタート地点へ戻るコースを歩いた。

 

週末だったこともあり、

ほどよい人出で賑わっていたが、

ガイドさんと14名の仲間たちと

ゆっくり歩いて5時間ちょっとの、

楽しい時間だった。

 

山頂の雷岩あたりで、

野生の鹿に間近で逢えたことが印象的だった。

はじめに親子連れの2匹、

すぐ近くに青年らしき1匹、遠くに2匹。

警戒心が強いようであまりないのか、

食べ物を探してあちこちを歩きまわっている。

思ったより痩せた体に、

白い斑点と、白いおしり、

短いしっぽを元気よく振っている。

まっすぐで透明な目が、愛らしい。

ほんの20年前まで、稜線のお花畑が

それはそれは見事だったというが、

近頃は鹿が増えて、お花はほとんど食べられてしまい、

なるほどみどりの草原といったふう。

岩の上などに、少しだけ残っているお花はとても儚げ。

そんな悪者扱いされている鹿だけれど、

人間だって増え続けて色々なことをしているのだから、

鹿のことを責められる立場ではないような。

 

1か所にだけ僅かに残るという光苔が、

蛍光色に発色していて、とてもきれい。

自然のものなのに、なんだか人工的で面白い。

 

美しいものは消えてゆく運命かしら。

それとも復活するのかしら、キリストみたいに。

人間の働きかけの力は大きいと思うし、

そう願えば、地球の庭師にもなれると思う。

自然のままの森林より、

人の手がすこし入った森林のほうが、

豊かに持続すると聞いたこともある。

希望をこめて。

 

自然のなかにいると

存在がとけてゆくのがとてもうれしい。

理由なく感動するし、幸せを感じる。

私たちの体は、地球の素材でできているから、

共鳴するのかも。

聴こえない音楽を肌に感じるように。

 

今度は裂石の登山口から登りたい。

丸川峠をゆくのもいいし、

大菩薩峠の山小屋・介山荘から

小菅へ降りてゆくのも、楽しそう。