佐賀町日記

林ひとみ

杜人 ~ 環境再生医 矢野智徳の挑戦

キネカ大森のドキュメンタリー映画祭で

「杜人 ~ 環境再生医 矢野智徳の挑戦」を観た。

日本各地で展開されている「大地の再生」プロジェクトの、

感動的な記録映画。

 

「杜人/もりびと」という愛称がぴったりな

造園家の矢野智徳(やのとものり)さん/1956年~は、

北九州市の港町、門司の出身で、

お父様が私財を投じて1952年頃に開園された

3haほどの花木植物園「四季の丘」のなかに生まれ育ち、

物心つくころから植物の世話をしていたという。

10人兄弟だったので植物園のことはお兄様たちに任せて、

東京の都立大学で自然地理学を専攻。

ところが座学がピンとこなかったようで、

27歳くらいの頃、休学して日本全国の山、

小笠原や沖縄から北海道までを実地に歩きまわり、

生死と隣り合わせの体験を幾度もしたそうだからすごい。

1984年/28歳頃に矢野園芸として独立、

次第に環境問題に行き当り、

環境NPO法人「杜の会」を1999年に共同設立、

一般社団法人「大地の再生 結の杜づくり」の顧問を経て、

現在は合同会社「杜の学校」の代表として、

山梨県上野原を拠点に、全国を駆けまわる、

別名「ナウシカのような人」とも。

わたしには、穏やかでやさしいお人柄のなかに、

しなやかで強靭な精神をお持ちの方と感じられた。

 

その40年近い経験から、

今起こっている環境問題は「生態系の循環不良」だと見極め、

「空気と水の循環」を取り戻すと、

途端に土も樹木も元気になると励ます。

人の頭で考えてもうだめだと思うような状況でも、

自然はそれ以上の力をもっていると実感しているから、

自然も自分も生きている限り「あきらめない」と淡々という。

コンクリートを全部引きはがしたり、

建物を壊したりといった非現実的なことをしなくても、

要所要所に穴や溝を設けて水脈を整えたり、

風の草刈りをして空気の通り道をつくったり、

イノシシのように土を掘り起こすなど、

現状に的確に手を入れるだけで大丈夫。

たとえば身近なところでは、

カマとスコップだけでできることはあるという。

本編では、屋久島の瀕死のがじゅまるに風を通したり、

西日本豪雨で決壊した岡山県真備町の川の流れを元通りにしたり、

仙台市のサクラの古木を蘇生させたり、

いのちが輝きだす様は、ほんとうに感動的。

 

また映画の誕生物語も

その内容と同じくらい興味深い。

制作・監督・撮影・編集を一手に担った前田せつ子さんは、

ソニーミュージックエンターテイメントで

音楽および映画雑誌の編集を担当した後に独立し、

2011~15年には国立市の市議会議員も務めた女性で、

その在職中に国立の大通りの桜並木の伐採計画が浮上し、

国立市民だったという矢野さんを招いて

勉強会を開いたことがきっかけだったという。

その大地の再生講座に参加するうちに、

矢野さんの言葉やその内容を記録しなくてはと思い立ち、

はじめはハンディカムで撮り始め、

制作費もクラウドファウンディングで

あっという間に目標額の4倍以上も集まったというからすごい。

純粋な想いが共鳴し合って実現すること。

 

そうして今年完成した映画は、

4月にアップリンク吉祥寺を皮切りに劇場公開され、

全国各地の小規模ながら志ある映画館で、

新規上映やアンコールが続いているという。

 

新しいはじまりはいつも草の根で、

きらきらした想いが光の反射のように蠢いている。

まだ知らない奇跡が、あちこちで起きている。

そういうことを見たいし、力になりたい。

 

矢野さんの生まれ育った、

現在の北九州市立・白野江植物公園

いつか行ってみよう。

 

杜人(もりびと)〜環境再生医 矢野智徳の挑戦