佐賀町日記

林ひとみ

1月のおわり

2021年の1月が今日でおわる。

ひととき雪の舞った日もあったけれど、

穏やかで暖かいひと月だった。

 

そして緊急事態宣言中なので、

なるべく家にじいっとしていた。

読みたい本がたくさんあるものの、

読むのがすこぶる遅いので、時間がたりないくらい。

そうして、夜の歯磨きの20分間と、

つづいて湯舟のなかは恰好の読書室になる。

先日は本をうっかり湯に落してしまい、

小さな俳句の冊子を、しわしわごわごわにしてしまった。

図書館で借りたものや、大事な本は、

この快適な読書室には厳禁だ。

本は紙でできていて、紙は木からつくられる。

この本はどこの木だったのだろう、とふと考える。

 

今月やっと読み終えたのは、

フレデリック・フ―スラーの「うたうこと」。

半世紀以上前に書かれた声楽教本の訳書で、

子細な研究・記述に学ぶことが多かった。

Fewderick Husler / 1889-1969は、

あとがきによると、アメリカに生まれ、

ドイツで仕事をし、スイスに没した、

国際的な声楽発声の研究家であり教育者とのこと。

ひととおり読み終えたけれど、

何度も何度もくり返し読むことになりそうな、

ひとつのバイブルといえそうな本だ。

今の私には、横隔膜の支えのメカニズム、

声帯のつくりと緊張筋・閉鎖筋・伸展筋のこと、

喉頭の引き上げ筋・引き下げ筋のことなどが、

大きなヒントとして興味深く感じられた。

一方でよくわからなかったのはアンザッツの章。

声の響きを感じる場所と理解したけれど、

6種類ほどあるアンザッツのひとつひとつが、

わかるようでいまいちわからない。

そのうち自然にわかるときがくるといい。

と同時に、本書の説くことすべてが、

必ずしも唯一の正解ではないということも、

認識しておいたほうがよい気がする。

たいへん貴重な教本であることに変わりなく、

わたしにとっては、アメリカの

リチャード・ミラー氏の著作と並ぶ決定的な本だった。

本書に出会えて、読むことができて、

ほんとうによかった。

 

そういう読書の旅、喜びの旅をつづけたい。