佐賀町日記

林ひとみ

マスクとマネー

東京も引きつづきの緊急事態。

 

慣れてきたのかどうか、

そろそろ日にちや曜日、

かつての日常の感覚も薄れてきた。

それがよいことなのか、

よいことではないのかは、わからない。

 

いつ頃からだろう、

毎朝10時に江東区防災無線から

「新型コロナウィルスの感染拡大により、

 緊急事態が発令されています。

 不要不急の外出は控えていただきますよう

 お願いいたします」

という自動音声が放送される。

はじめのうちは耳を澄ましていたけれど、

このごろはBGMになってしまった。

ゴールデンウィーク中の特別放送かと思っていたが、

その後も毎日繰り返されるので、

ゴールデンウィークが永遠と続いているよう。

 

今月5月1日に、政府からマスクが届いた。

新聞でみるそのままの、

安倍首相が着用しているとおりの、ガーゼマスクが2枚。

「来た来た、マスク!」と、思わず大笑いしてしまった。

政府の誠意を感じる一方で、不謹慎とは思うけれど、

なにかコントのような、滑稽さを感じてしまったのだった。

確かにマスクが手に入りづらい状況が続いて困ったけれど、

といってそれは政府だけの責任でもないし、

国民にも一応、行動力はあるのだ。

 

折よく東京新聞に掲載された型紙を活用して、

布マスクを試作してみた。

手縫いなのでひとつに2時間弱かかったが、

型紙が合ったのか思いのほか快適だったので、

布を替えて気分も変えて、

若干の改良を重ね、気に入って使用していた。

だから、政府のマスクが届いたときには

子ども扱いされていささか心外というか、

「心配しなくても自分たちでできるよ」というような、

心配性の母親を宥めるような気持ちにもなったのだ。

それに、とても現代的とはいえない旧式のマスクなので、

開封せずにそのまま保管。

必要な人にマスクを届けるプロジェクトに

参加するための出番を今かと待っている。

 

一方でベーシックインカムのような給付金が

国民ひとりひとりに10万円支給されるという。

また中小法人とフリーランスなどへの

持続化給付金の申請も始まった。

マスクがこども政府の政策としたら、

給付金はおとな政府の政策と思いたい。

もちろん賛否はさまざまで、

少ないし足りないと思う人、要らないと思う人、

要らないけれど寄付に使うという人、いろいろのようだ。

本当に必要な人に必要な分を届ける、

というシンプルなことをもっと簡単にできたらと思う。

もし量子コンピューターにそういうことが可能なら、

近い未来の普及が待ちどおしい。

 

日本のCOVID-19の新規感染者は

ここ1週間ほど目に見えて減りつつある。

ほっとするとともに、

6月からの新しい日常がより現実味を帯びてきた。

私たちはどのような世界を創りだしたいのだろう。

 

地球規模のホモ・サピエンスの活動自粛で、

世界の空気と水が透きとおり、

南洋では絶滅危惧種ジュゴンの群れが確認されたとか、

人気のない住宅街に野生の動物が現れたとか、

予想外に健やかな生態系の変化に驚いた。と思えば、

日本の国を自分たちの自衛隊で守れるようにしようとか、

過去最高の防衛費5兆3千億円超を計上したとか、

戦闘機F35の147機の購入計画に、地上配備型追撃システムの

イージス・アシュアを秋田と山口県に配備するなどと、

対外情勢は何かと物騒だ。

加えて近々、防衛省に「宇宙作戦隊」ができるというから、

ますます未知の領域だ。

 

私たちは自分たちの未来を選ぶことができる。

いつだって光と闇は背中合わせに拮抗しているし、

きっとそういうものなのだと思う。

緊急事態宣言の解除に向けて、

希望と不安の両方を大事にしつつ、

自分らしく生きていきたいと思うのだった。