佐賀町日記

林ひとみ

クローバー

6月は白い花があちこちできれい。

どくだみ、やまぼうし、カラー、

くちなし、たいざんぼく、

それに名まえを知らない大小の花々も。

 

先日は図書館に寄ったついでに、

港区の芝公園を歩いた。

曇り空がやさしくて、緑が心地よい。

だんだん息も体もゆるんでくる。

クローバーが辺り一面に広がっている。

可愛らしい白い花。

俳句では春の季語で、

苜蓿/うまごやし、白詰草/しろつめくさ、ともいう。

膝をたたんで、目線を合わせていると、

あれっと、四つ葉が目に入った。

とても久しぶりにみつけた。

 

以前にみつけたのはいつだったろう、

と思い出の中を彷徨ってみる。

過去に見つけたふたつの四つ葉は、

本に挟んで押し花になっているけれど、

はっきりと覚えているのはひとつだけ。

20年近く前のことだったと思う、

学生の頃わたしは一時体調を崩していて、

祖母のいた群馬県沼田へ度々静養に訪れていた。

そこへ父が来てくれて、

玉原高原だったか尾瀬の湿原だったかに、

ドライブに連れて行ってくれたときに見つけたのだ。

当時、心と頭と体のバランスをとるのに苦心していて、

神経が過敏になっていたのか、今でもよく覚えている。

ふつうは三つ葉のクローバーに

四つ葉があることを知ってはいても、

実際に自分で見つけてみると感動するものだ。

ところが元気なときに見つけた、

もうひとつの四つ葉のことは、まるで記憶にない。

いいのかよくないのか、わからないけれど、

記憶というものはどうなっているのだろう。

 

この6月1日は不思議だった。

四つ葉のクローバーをひとつ見つけて、

小さな幸運によろこびつつ、

しばらく歩いて、またひとつ見つけて、驚いて、

またずっと歩いてひとつ見つけて、戸惑って、

そこで五つ葉のクローバーまで見つけた。

探している時はみつからないのに、

たいして探していないとみつかるのは、

よくあることだけれども。それにしても。

遺伝子のコピーミス、変異体だけれど、

三つ葉の群生のなかで、

四つ葉や五つ葉に心を奪われてしまうのは、

その希少性のためだろうか。

たとえば二つ葉があったとしたら、

やはり惹かれるだろうか。

 

傍らに、お米粒くらいの赤ちゃん天道虫がいる。

やわらかい茜色が、きらきらしている。

 

図書館で借りた、

O・ワイルドの童話「幸福の王子」を読みながら、

日比谷線を帰路に着く。

今回はキリスト者曽野綾子さんの翻訳で、

わたしが大すきな王子の悔恨の場面と、

結論の場面。

 

「庭の周りには、高い塀があって、

 その向こうには何があるか、

 私は知ろうともしなかった。

 私は美しいものに囲まれていたんだよ。」

 

「この世で最もすばらしいのは、

 人々の悲しみなんだよ。

 みじめさにまさる神秘はないんだ。」

 

そんなふうに思える人がこの世にはいるんだな。

幸福ってすごいことだなと、いつも思うのです。