佐賀町日記

林ひとみ

五輪 ショートパスタ

しとしとと雨の日がしばらくつづいた。

梅雨の時期は温度計よりも湿度計を見ることが多い。

湿度が連日60%をこえて、

フローリングをスリッパで歩くとペタペタいう。

春先と錯覚するような肌寒い朝

セーターをひっぱりだしてはおった日もあった。

厚い雲に覆われて、

小型のソーラーパネルは発電をほとんどしないし、

ソーラークッカーはもっぱら休業中。

雲のせいか夜は薄明るく、星や月はかくれんぼ。

一方、植物たちは天然のシャワーに嬉々としている。

梅雨もそろそろ明けるだろうか。

  

今週は東京オリンピック2020がはじまって、

ちょうど今頃、東京は大賑わいしているはずだった。

世界中から人が集まる、華々しい祭典。

スポーツ観戦にとんと興味のない人も

否応なしにまきこまれてしまう一大イベントだ。

カレンダーの祝日は、「海の日」が移動して、

10月の「体育の日」が「スポーツの日」にリニューアルされ、

連休も整い準備万端だった。

ところが想定外のCOVID-19のパンデミックで、

あるはずのものがなくなってしまうという、空白。

そのぽっかりあいた空白に、無理に色を重ねるように、

「Go To トラベル」キャンペーンがはじまるという。

経済的に大打撃をうけた観光業を救済する政策だけれど、

東京はすでに第2波がはじまり、

第1波よりも感染者数は増えていることもあり、

東京発着の旅行は直前になってキャンペーンから除外された。

多くの地域で感染者数は落ち着いているとはいうものの、

旅行をする人も、迎える人も、お互いに複雑だ。

どこかの新聞で「Go To トラブル」と野次っていたのが、

なんとも可笑しく哀しい。

 

仮に東京都がキャンペーン対象であったとしても、

どこかへ旅行する気にはなれないので、

身近でできることを楽しみたい。

春の自粛期間中に覚えたことのひとつに、

ショートパスタ作りがある。

色々なレシピを探して、試して、家の定番ができた。

2人分の材料は、

小麦粉220g、オリーブオイル10g、水100g/cc、塩ひとつまみ

と、とてもシンプルだ。

作り方も簡単で、全材料を軽く混ぜ、

なじませるためにラップをかけて1時間寝かせ、

あらためて捏ねて、成形して、茹でるだけ。

イタリアの片田舎のマンマが作ったような、

もちもちのショートパスタができあがる。

形はオレキエッテ/小さな耳を目指すけれど、

真中に窪みのある小さな白玉といったふうで、

野暮ったいのはこの際、魅力のひとつとしよう。

とても美味しく、うれしい食事になる。

小麦粉は薄力粉でも中力粉でもできるし、

220gのうちセモリナ粉を60~80gくらい入れると、

パスタらしい薄黄の色と、硬質の歯ごたえがうまれる。

セモリナ粉を入れないと、うどんっぽくなるのと、

逆にセモリナ粉の量が多いと、

ぱさぱさとして混ぜにくく、扱いにくかった。

ショートパスタにはいろいろな形、たとえば

ファルファッレ/蝶、コンキリエ/貝、

カッペレッティ/小さい帽子、などなど

ユニークな形が数えきれないほどあるので、

粘土遊びのように、あれこれ試してみたい。

いっそすきな形につくってもいいのだ。

 

今年の夏は、マスクをして人混みを避ける、

かつてない夏になりそうだ。

密閉したエアコンの使い方にも配慮が必要になる。

ちょうど読みたい本がたくさんあるので、

わたしは読書の夏にしよう。

静かで熱い夏、といえるかな。