2018年のお正月は帯状疱疹とともにやってきた。
なにかと気忙しい年末は12月30日の夜に
唐突にはげしい腰痛がはじまった。
大掃除というほどではないが、
普段は手が回りにくい浴室のタイルとか、
冷蔵庫の裏とか、クローゼットの下とか、靴箱とか、
あちこち掃除したので、身体に堪えたのだと思った。
じんじんとした腰の痛みは2~3日つづき、
とくに就寝時に強く感じられて悩ましく、
元旦には骨盤ベルトを装着して、初詣に行列し参拝した。
そうこうするうちに痛みは左側に集約されて、
ぴりぴりしたものになり、気付いたときには
みみず腫れのような、ぼわんとした赤い発疹が
痛みのある左の腰回りに現れて、びっくりした。
新年3日の早朝に「家庭医学大全科」なる
6㎝ほどの分厚い病気の手引きを参照し、
帯状疱疹らしきことが判明したので、
その日の午後に江東区の休日急病診療所へ向かった。
診療所は想像した通り、病人でごったがえし、
具合の悪そうな咳があちこちでこだまして、
さながら野戦病院のごとく、ひるんでしまう。
一見するとインフルエンザと思しき高熱に
苦しめられている人が多いようだった。
帯状疱疹らしき症状が、どことなく場違いのように、
軽症であるように錯覚されて待つこと1時間と少し、
ふたつある診療室では、順番待ちの30名ほどの患者を
テンポよく快活に診察していて見事だった。
ほどなく名前が呼ばれ診察を受けると、
担当の誠実そうな若い男性医師はいささか戸惑いながら、
「ぼくは皮膚科じゃないのですが、
たぶん帯状疱疹でいいと思います。
とりあえず抗ウィルス薬を出しておきますが、
休みが明けたら必ず専門医を受診してください」
と診断し、そばにいたベテランらしい看護婦さんは
「うん、そうね、帯状疱疹ね」と、さしあたって
対応を迫られた若い医師をサポートするように同意した。
一抹の不安は残るものの、仕方もないので、
かかりつけの皮膚科が開業する9日まで、薬を処方してもらった。
帯状疱疹/たいじょうほうしんは、
水痘・帯状疱疹ウィルスによる神経痛と発疹を伴う疾患で、
子どもの頃に感染した水疱瘡のウィルスが沈静化した後、
神経節に潜み、何かのきっかけで再活性化し発症するという。
ウィルスは神経を傷つけながら皮膚表面に出てくるので、
身体の片側に、痛みにつづいて帯状の発疹が現れるのが特徴で、
治療はなるべく早く、ということだった。
その後、かかりつけの皮膚科に受診し、
応急の診断と処方が的確であったことを聞き、安心した。
今となっては、骨盤ベルトまで持ち出して
腰痛と信じて疑わなかったことが滑稽で、
神社の神様たちも笑っていたかもしれないけれど、
2018年のお正月はいつになく印象的に明けたのだった。
抗ウィルス薬のおかげで次第に症状もおちつき、
気持ちに余裕がでてくると、
お正月に診療所で働いていたドクターやナースや
薬剤師や事務の方々の顔が思い出され、
頭が下がるような有難いような気持ちが湧いてくる。
そして改めて、日頃は顧みることのない
「家庭医学大全科」をのぞいてみると、
世には本当にたくさんの病気があるのだと戦慄する。
どこにも痛みがなくて、異常も異変もない、
ノーマルな状態が、奇蹟のように感じられてくる。
元気で好きなことができるのは、
ほんとうに幸せなことなのだ。
療養にはげみつつ読み進めた
「病気は、いわば生命の放縦な一形式である。」
という表現が、ことさら印象深く響いてくる。
健康と病のコントラストもまた、
人生の興味深い一部なのだろう。
思いもよらぬ帯状疱疹の洗礼により、
心身が清浄されたであろうと信じつつ、
2018年も素敵な一年になりますように。