佐賀町日記

林ひとみ

W3 ワンダースリー | 手塚治虫

漫画家・手塚治虫/1928-1989の中期の名作

「W3 ワンダースリー」を読んだ。

 

きっかけは友人の今年の初夢だ。

「今年は手塚治虫の漫画ワンダースリーの

 物語の終盤がそのまま夢にでてきた」とのことで、

つづけて物語の概要を解説してもらう。

 

「ワンダースリーは、地球を調査するために

宇宙からやってきた3人の宇宙人で、

ウサギとカモとウマに姿を変えて、

地球を滅ぼすか救うかについて、人間を調べているんだ。

万が一のときのためにもってきた反陽子爆弾が、

ひょんなことから地球人の手に渡って悪用されかけたが、

爆弾がひとりでに地面深く地球の中心近くまで潜ってしまい、

ワンダースリーは円盤で探しに行くのだけれど、

爆弾を探し出したところで円盤が故障してしまい、

宇宙人は爆弾もろとも地球の中心ちかくに閉じ込められてしまうんだ。

そこで物質電送機をつかって必要な材料を電送してもらい、

円盤を修理して宇宙へ還っていく、という物語。」

 

「W3 ワンダースリー」は小学館発行の

週刊少年サンデー」という漫画雑誌に、

1965年5月30日号から1966年5月8日号まで

およそ1年間にわたり連載されたSF作品だ。

現在は「手塚治虫文庫全集」/講談社で読むこともできるが、

2012年に国書刊行会より刊行された

手塚治虫トレジャー・ボックス」に、連載時の

雑誌オリジナル版がオリジナルサイズで収録されていたので、

全3巻+別巻を近所の図書館で借りてきて、夢中で読んだ。

 

はじめて読むW3の物語は、

50年以上も前に描かれたと思えぬほど、

現代的で活々としていて、ページをめくるたびに、

どきどきとする冒険やチャレンジに満ちていた。

手塚治虫ストーリーテリングの巧みさ、

画の鮮やかさ、台詞の力強さ、

真剣さと遊びのバランスが、ほんとうにすばらしい。 

 

物語の冒頭、争いの絶えない地球について、

すぐれた生物のあつまりである銀河連盟が、

地球を救うか滅ぼすかについて採決する場面は

殊に印象的だ。意見がふたつに割れたため、

銀河パトロール隊のワンダースリーが1年間、

地球を調査し報告することになるのだが、

なるほど進化した宇宙人の視点からみれば、

地球人は野蛮で残酷で救いようのない、

危険極まる生物なのかもしれない。

 

それでもワンダースリーは、地球に滞在するうちに、

やんちゃだが正義感が強く真心あふれる真一少年との交流や、

その兄・光一青年の属する正義の秘密諜報機関フェニックスの

活動などに触れることによって、

次第に地球人観を更新していくことになる。

1年間の滞在の後、地球での出来事を報告し終えると、

銀河連盟は満場一致で地球を滅ぼすことを決定したが、

ワンダースリーはその命令に背き、

反陽子爆弾を棄てて宇宙へ帰還するのだった。

そうして罪を問われたW3は追放刑となり、

それぞれ記憶を消されて地球人となるのだが、

そこではあっと驚くタイムパラドックスの仕掛けで、

物語に奥行きが与えられて、円が結ばれて完成するような、

感動的な余韻とともに物語は締めくくられるのだった。

 

ウサギに姿をやつしたワンダースリーの隊長ボッコはいう、

「地球は原始的ですさんでいますけど

 人間の心の中にはまだすくいがのこっていました(略)

 ことに子どもたちはりっぱできよらかでま心がありました」と。

いつの時代も子どもはたちは、地球の希望だ。

彼らの生得の輝かしさがいつまでも損なわれませんように。

またかつて子どもだった大人たちがパワーアップして

ますます希望をつないでゆけますように。

 

2018年の現在、たとえば銀河連盟は地球のことを

どのように見守っているかはわからないけれど、

W3が人気を博した1965~66年よりは、

平和で幸福な惑星であることを願わずにはいられない。

そしてひょっとすると、地球人になった

元宇宙人のボッコやプッコやノッコのような生命体が

人知れず地球に暮らしているのかもしれないと想像すると、

なんだかとてもわくわくするし、

実際にそういうこともあるのかもしれないと思うのだ。