佐賀町日記

林ひとみ

アニエス・ヴァルダの幸福

今日は海の日。

2022年の梅雨は早々に、

例年より半月ほど早い6月27日頃に明けた。

ところがまたしばらくの雨模様、

夜は涼しくて寝やすい日がつづいたけれど、

今日連休の最終日は、海日和。

ひさしぶりの太陽に元気をもらうような、

くったりするような。

 

先日、銀座のメゾンエルメス

アニエス・ヴァルダ監督・脚本の「幸福」を観た。

はじめて観たときに、

強烈な印象を残した作品だったけれど、

ひさしぶりに観て、やっぱり強烈だった。

 

ベルギー生まれのフランス人、

アニエス・ヴァルダ/1928-2019の

比較的初期1965年の作品だけれど、

色彩感覚のすばらしさと、物語の完成度の高さ、

その描写の独自性に、あらためて感嘆。

冒頭のひまわりの描写に、

W.A.モーツァルトのなんともあやしい

弦楽版アダージョとフーガ K546が引用されて、

物語は雄弁に暗示される。

 

パリ郊外に暮らす、幸福そのものの若い家族に、

ひとつの恋愛が絡んで悲劇が起こる、

決してめずらしくないストーリーなのだけれど、

ヴァルダ監督にかかると、

どうしてこう素晴らしく恐ろしいのだろう。

ナイーブで力強く、

洗練されているのにざっくばらん、

きめ細やかなのに実際的で、

おだやかにはげしい。

女性にしか描けないことを、

あっけらかんと描ききってしまうことに、衝撃をうける。

胸がしめつけられて、涙がこぼれる。

 

言葉にできないこと、

言葉にしてしまうと

嘘になってしまうことがある。

圧倒的な行動の力。

 

ほんとうにすごい映画。

 

旦那さんのジャック・ドゥミ監督の

チャーミングでキュートな世界とは、

表面的に似ているようで、ものすごく違う。

わたしが最初にすきになったのは、

ドゥミ監督のほうだったけれど。

 

はかない幸福を象徴する音楽として、

同じモーツァルト

クラリネット五重奏曲K581が用いられていて、

物語とともに聴くと、とても切ない。

 

W.A.モーツァルト

「神々しい軽さ」と表現したのは、

ロシアのピアニストだったかしら。

言い得て妙。

 

わたしは人生を映画や本から

教えてもらったように思う。

 

すばらしい作品に触れると、

うれしいようなかなしいような、

不思議な気持ちになるのです。