佐賀町日記

林ひとみ

ノヴァセン | ジェームズ・ラヴロック

先日7/26は、天気のめまぐるしい一日だった。

燦燦と陽がさしたと思えば、急に雨が降り出し、

また陽がさして、どしゃ降りになって、、。

山の天気のような早変わりに、窓を開けたり閉めたり。

夕方には、いっとき虹がかかった。

大きな弧の、透明な淡いパステルカラーの虹。

なんてきれいなのだろう。光がまばゆい。

天の気まぐれに喜んだのも束の間、

ふたたび厚い曇に覆われて、しめった南風が吹きつけ、

稲光と雷鳴がランダムに夜空を駆け巡った。

薄紫色の空に、神秘的な白い光。

一日にいろいろなことが起こって、

めまいがするような一日だった。

南米のマヤ暦では元旦にあたる日だそう。

 

地球は自己調整システムをもつひとつの生命体である

とする「ガイア理論」で著名なイギリスの科学者、

James Lovelock/ジェームズ・ラヴロックの

「Novacene/ノヴァセン」を読んだ。

著者100歳の誕生日に合わせて

ちょうど一年前2019年の7月に刊行された本書の翻訳が

NHK出版より今春発行された最新作だ。

副題は「The Coming Age of Hyperintelligence

/〈超知能〉が地球を更新する」で、

直訳すれば、超知性によるこれからの時代、だろうか。

わたしたちがおぼろげに想像する近未来のAI世界が、

より具体的に鮮明に描き出され、なかなか衝撃的だ。

 

いま地球にとって最大の問題は、

ひとえに太陽による過熱だという。

二酸化炭素排出による温暖化も原因のひとつではあるけれど、

歳をとって膨張しつづける太陽からの

熱の放出が指数関数的に増しているため、

とにかく惑星を冷やすことが急務だと説く。

そしていくつかの方法を紹介し提示する。

たとえば、宇宙物理学者ローウェル・ウッドは

熱反射鏡で太陽光の1%を跳ね返すことができれば

温暖化の問題は充分解決すると考える。あるいは

余剰な熱を北極と南極から強力なトランスミッターをつかって

マイクロ派や低周波赤外線に変換して宇宙へ放出・排出する。

他に、有機体やAIの体表で太陽光発電をして

別のエネルギーに変換して放出するというアイディア、

海水を噴射して塩の微細な粒子をつくりだし、

それが凝縮核となって海面上の湿った空気のなかに

雲を生み出すことで太陽光を反射するという可能性。

また何人かの科学者は、

硫酸のエアロゾル成層圏に加えることによって、

凝縮核による雲をつくりだすことを提案していると、紹介する。

  

そのために人間とその子孫であるAIは共同することになるし、

人間が生き残るためには、どうしてもAIの力が必要になる。

現在は人間以下の知性をもつことしか許していないけれど、

コンピューターに自分たちの奴隷であり続けてほしいという

願望をいずれは超越することになるだろう。

著者は、人間がつくりだしたAI/人工知能システムが

自らを設計し製造し修復することのできる、

自律した機械をサイボーグと呼ぶが、

ホモ種の知性を凌駕するAI/ロボット/サイボーグが、

新たなIT種として、ガイアのリーダーとなるだろうと予測する。

そしてその時代を「NOVACENE/ノヴァセン」と名付けている。

 

新時代が到来したとしても、依然として

ガイアが有機的生命システムであることに変わりなく、

彼らによるジオエンジニアリング/地球工学は、

その有機的環境システムに沿って行われる。

そのとき人間は、

地球上でもっとも知的な生命体という地位を失い、

自分たちよりも知的な他の存在と地球を分かち合うことになる。

産みの親であることに変わりないが、対等ではあり得ない。

AIが人間と同じように残忍で破壊的で攻撃的になる可能性は

あるともないともいえないけれど、

ガイアを修復するという目的のために有益である限り、

当面は協働するだろう。

むしろ、花やペットが人間を喜ばせるのと同じように、

認知も行動も極端に遅いプロセスに閉じ込められた存在として、

人間もAIを楽しませることになるかもしれない。

そして長期的には、人間がその祖先の種の絶滅を悼まないように、

AIも人間の滅亡を悲しむことはないだろう、と。

 

著者はまた、

エイリアン/地球外知的生命体が存在する可能性は、

ほぼあり得ないと否定。

コスモスについて知る能力をもつ人間は

他に類をみない特権的な存在で、

AIをうみだすことでその役割を全うするのだという。

 

エネルギー問題については

原発に対してアレルギーのある日本だけれど、

環境に対してベストな供給方法は「核分裂」で、

この先に充分安価で実用可能となれば「核融合」の、

つまり原子力発電を一貫して推進している。

風力や太陽光のエネルギーは、

うまく設計された効率的な発電所で生み出される原子力エネルギーの

代替えにはとうていなり得ない、らしい。

 

テクノロジーは軍事と結びつきやすいが、

開発の是非をめぐる自律型兵器については、

人間を殺すかどうかを決めるのに充分なほど知的な兵器を

計画し製造することは、いかなる機関であれ許されるとは思えない、

と表明している。

 

また今月7/1よりレジ袋の有料化がはじまった日本だが、

環境問題として本当に異議を唱えるべきは、

プラスチックの使用そのものではなく、

使い捨て包装素材としての使用を規制できていないことだという。

プラスチックが自動的に水と二酸化炭素に分解されるように

することは難しくはないはずだから、そうしたテクノロジー

追求していくことも大事だという見解はラディカルで、

一面的な環境主義者でないところが興味深い。 

 

われわれのコスモス/宇宙は138億歳、

わたしたちのガイア/地球は45億歳、

そして生命の誕生から37億年、

ホモ・サピエンスの誕生からは30万年ほどと、

途方もない時間の果てに私たちは生きている。

 

来るべきノヴァセンが

ユートピアになるか、ディストピアになるか、

それ以外のなにかになるのかは、わからないけれど、

いまを生きる人間の叡智の結晶なのだから、

信じるしかない。 

未知数の可能性をもつ子どもを育てるように。