佐賀町日記

林ひとみ

髪をきる

長く伸びていた髪の毛を切った。

10年近く構わずに、

伸ばしていたというより、伸びていた髪。

最後に理髪店を利用したのはいつだったろう。

 

6年程前に、ヘアドネーションのことを知り、

いつか参加してみようと思っていたのが、

忘れたり思い出したり忘れたりして、

いまになった。

 

人の髪の毛はどこまで伸びるのだろうという

ちいさな好奇心もあって伸びるにまかせていたけれど、

腰を越えて臀部までくると、何かと不便で、

その都度ちょいちょいはさみでカットしていた。

シャンプーとドライヤーもなかなか手がかかる。

 

そうして機が熟したというのか、

髪をきってみたくなったというのか、

ドネーションへ参加しようと思い立ったのだ。

 

NPOの活動に賛同している美容室が

所々にあるようだけれど、

せっかくなので自分でカットしてみたい。

手順に従って、髪の毛を左右にわけて、

それをさらにふたつの束にわけて、ゴムで結ぶ。

その計4本の髪の毛の束に、ひとつづつ、

おそるおそるはさみを入れてゆく。

そのはさみは小学校の道具箱に入っていた、

キリンの模様の入っている工作用のはさみ。

じょきじょきじょきと、なかなか切り応えがある。

髪の毛も生きているのだと感じられる。

ありがとうという気持ちと、

断髪という言葉が、自然と浮かぶ。

右利きなので、左側の束は切りやすいけれど、

右側は切りにくく、不格好になったが、

なんとか切り終えた。

長さを計ってみるとだいたい70㎝、

重さは84gだった。

それらをレターパックに入れて送れば、

ウィッグに加工されたのち、

色々な理由で髪の毛を必要としている子どものもとへ届けられる。

髪の毛がすこしでも人の役にたてばうれしい。

 

そうしてわたしは、

漫画サザエさんの妹のワカメちゃんのような、

切りっぱなしのおかっぱ頭になった。

あんまりおかしかったら美容室へかけこむつもりだったが、

整理されていないでこぼこカットもそれはそれで面白い。

それに誰もそんなによくよく人のことを見ないし、

髪はまたすぐ伸びる。

 

子どものころ、

ときどき「そこのぼくー」といって、

男の子に見間違われてぶすっとしたものだが、

それはそれで悪くないな、面白いな、

と思うこの頃なのです。