エルンスト・ルビッチ/Erunst Lubitsch の
映画「To Be or Not to Be/生きるべきか死ぬべきか」を観た。
第二次大戦中の1942年にアメリカで制作された本作は、
恋愛と戦争サスペンスとが織り込まれた
シニカルなコメディタッチのモノクローム映画だ。
第二次世界大戦のきっかけとなった
歴史的な侵攻/1939年の直前からはじまる。
主人公は舞台俳優のヨーゼフとマリアのトゥーラ夫妻で、
冒頭では、当時ヨーロッパで勢力を拡大していた
総統ヒットラーを巧みに皮肉った舞台の稽古模様が展開され、
その小気味のよさにドキリとするやら笑っていいやら。
とまれ不穏な情勢のためにプログラムの変更を余儀なくされ、
やむなくシェークスピアの戯曲「ハムレット」を公演することとなる。
一座の看板女優である夫人マリアは、
連日の花束の送り主で熱烈なファンである青年ソビンスキーを
楽屋に招待すべく、メッセージを手紙にて言づける。
劇中、夫ヨーゼフ演じるハムレット王子の名台詞
「To be , or not to be , ー」を合図に訪ねてくるようにと。
素知らぬ夫ヨーゼフは名場面の最中に退場する青年を認めて、
役者としての自らの才能を憂う一方、
夫人マリアはソビンスキーと逢瀬を重ね、
ちょっとしたロマンスを楽しんでいた。
そんな中、ドイツのポーランド侵攻とともに戦争に突入し、
首都ワルシャワも陥落し、
ポーランド空軍所属のソビンスキー中尉は
マリアとの別れを惜しみつつ同盟国イギリスへと旅立つ。
彼の地にて、極秘任務を携えて
イギリスからポーランドへ渡るというシレツキー教授と出会い、
恋するマリアへの伝言「To be , or not to be」を託すことに。
ところがひょんなことから
シレツキー教授がナチスのスパイであることが発覚し、
ワルシャワの地下抵抗組織の情報を携えたシレツキー教授が
占領軍ゲシュタポに情報を通告することを阻止すべく
特務を受けたソビンスキーが帰国したことから、
物語は一気に白熱する。
マリアとヨーゼフの夫妻を巻き込んで、また劇団員を総動員して、
冒頭で上演不可となったゲシュタポを題材とした演劇を下書きに、
大胆な一世一代の大芝居をうって、
スパイ・シレツキー教授の暗殺に成功。
ほっとしたのも束の間、嘘が嘘を、芝居が芝居を呼ぶように、
さらなる危機を乗り越えるべく命がけの芝居を重ねて、
終には一同ポーランドから脱出し、一件落着、
大団円のうちに終幕という、およそ100分の物語だ。
4月末にメゾン・エルメスのル・ステュディオで観て、
再度DVDを借りて観たのだが、
ほんとうに素晴らしい映画だった。
なんといっても物語がよく練られていて、
ハンガリーの劇作家
メルヒオル・レンジェル/Melchior Lengyelによる脚本も、
役者を演じる芸達者な役者たちも、
ユーモラスで軽妙洒脱な演出も、
ほんとうに素晴らしかった。
第二次世界大戦の只中に、
まだ情勢が定まらないときに、
ドイツ・ベルリン生まれでアメリカの市民権をもつ
晩年のルビッチ監督/1892‐1947が、
このような作品を創ったということに、驚く。
もちろん公開当時に日本で封切られることはなく、
一説には1989年にようやく公開されたようだけれど、
不謹慎にも、このような上手/うわてな作品を創作する国と
戦争しても勝てるはずがないと思ったのだった。
劇中および題名に引用された通称「HAMLET」、
「THE TRAGEDY OF HAMLET , PRINCE OF DENMARK
北欧の伝承物語をもとにウィリアム・シェイクスピアによって
1600年頃に書かれたとされる戯曲だが、
劇中劇が物語を推進してゆくというプロットが
映画ではより徹底され拡大され、
負けず劣らずの群像劇という印象だった。
第3幕第1場の名台詞「To be , or not to be , that is the question」は、
さまざまに解釈できるため翻訳も一様ではないけれど、
そんなところもまた古典の魅力のひとつだろう。
映画を機に、
シェイクスピア文学の世界を探検したい、
2018年の関東もそろそろ梅雨入りというところ、
かたつむりが喜ぶシーズンだ。