佐賀町日記

林ひとみ

桜と戦争と

4月のはじめに、千鳥ヶ淵の桜をみにいった。

ちょうど満開のころでうれしい。

でも桜の老木はだいぶしんどそうにみえた。

ほんとうにツーリストが多くて、

おおよそカメラを前に得意そうにポーズをとっている。

桜をほんとうに観ている人はそんなに多くはなさそう。

 

「日本人なら墓苑へ行くべきよ」という後ろのおばさま方の

会話に促されるように、戦没者墓苑へ寄ってお花を捧げ、

休憩所に陳列されている戦争遺物(ヘルメットや南洋の石など)をみる。

それから北の丸公園のほうへ折れ、お濠沿いのさんぽみちを歩く。

いつもはほとんど人がいない、わたしはこの道がとてもすき。

悠悠とした赤松黒松がかっこいい。

すれちがう人のことばが耳へ届く。

「桜すばらしい。これで人がいなければね。」

なんだか申し訳ない、新しく近所に住みはじめた人なのかもしれない。

数年前まで工芸館として使用されていた旧近衛師団の建物を目印に、

北の丸の森へ入ってゆく。肩の力がぬけて、呼吸が深くなる。

ちいさな滝、ザリガニや蛇が棲んでいるという小川のまわりを散策して、

シートがしきつめられた賑やかなピクニック広場を遠目に、

武道館を横切りつつ、田安門のわきの、いつもは入れない参道をのぼる。

弥生慰霊堂といって、警視庁と東京消防庁の殉死者を祀るお社のよう。

高台にあるので、蓮のお濠・牛ヶ淵がよく見渡せる。

蓮の花の時期にあいていたら来てみたい。

 

もと軍人会館だった九段会館が、

リニューアルされて九段会館テラスに生まれ変わっていた。

東日本大震災のときに天井が落下して人が亡くなられた記憶が新しいけれど、

パンデミックさなかの2023年にオープンしていたみたい。

屋上のカフェテラスはとても気もちがよくて、

1Fのテラスは、お濠沿いに長くつづいていて、新鮮だった。

 

東欧でつづく戦争と、中東ではじまった戦争のことを想うと、

日本が敗戦によってのまざるを得なかった憲法9条という封印が、

かえって恩寵にみえてくる。もちろん当時も今も、

屈辱と思う人がいるのはわかっているけれど、でも守られている。

自民党のいうように憲法改正をして自衛隊を明記したとたん、

世界の戦争に参戦せざるをえなくなるだろうし、

それはたやすく国民の義務に変わりうるから、

そこの部分は変えてはならないとわたしは思う。

なによりも日本の矜持として。

いち日も早く、世界に平和がおとずれますように。