今年のお正月は暖かかった。
よく晴れて、静かで、
世界が透きとおってみえた。
三が日を過ぎたころ、
近くの清澄庭園へふらりと寄った。
大すきな石の庭園。
水辺に水仙が群生している。
花のたもとがきれいに直角に傾いて、
水面に映るものの美しさに見惚れている。
というナルキッソスの神話は、
それが自分だとは知らずに死んでしまう物語。
今年の初句会の兼題になっていたことを思い出して、
俳句をつくりつつ、つくるのを忘れつつ。
明治の代表的な「回遊式林泉庭園」ということで、
もとは江戸時代の豪商・紀伊国屋のお屋敷だったらしく、
その後、下総の或る藩主の下屋敷となり、
明治の初めに財閥・岩崎家の邸宅となったことで
本格的に造園され、今は東京都の庭園になっている。
大きな池、大泉水を中心に、
全国各地から集められたという銘石・巨石が楽しい。
本当にたくさん、財閥の汽船で運んだというからすごい。
当時は隅田川の水をひいたという干満のある泉水に、
磯渡りができるように飛び石が組んであって、
何て楽しい。鯉が寄ってくる。赤い鯉に黒い鯉。
寒いからお腹が空いているのだろうか、ついてくる。
富士に見立てた築山や、樟/くすの大木、
龍のように枝をうねらせた桜、
ぷかぷか浮いている水鳥たち。
そして踏みしめる砂利の一粒ひと粒に、
新年のお目出度い響きが聴こえるよう。
薄水色の空の低い位置に、
満月に近い夕暮れの月がかかっている。
翌日ふと思い立ち、
神保町のけやき書店へ行った。
雑居ビルの7階だと思っていたのが6階だった。
エレベーターが新しくなっていた。
日本近代文学の初版本や署名入り本の専門店で、
思いもよらない珍しい本に出逢えるのがうれしい。
この日は、未知の句集や詩集、
とくに小林秀雄の初版本やサイン本が印象的だった。
お値段もすごい、といっても2~3万円くらい。
今にも紙が破れそうなものもある。
以前みつけた「近代絵画」の初版本はもう無かった。
初めて小林秀雄と出逢った記念の評論集で、
古書店の軒先でふと手にとって衝撃をうけたことを
よく覚えている。20年くらい前だろうか。
その新潮文庫版はどうして絶版になったのだろう、
美大生にもよさそうな素晴らしい本だと思うけれど。
そうして時間を忘れ、外に出るとすっかり日も暮れていた。
全面開発工事中のお茶ノ水駅のまだ古いホームから、
またいち日ぶん満ちてゆく月を見上げた。
仕事始めの方もちらほら。
そして満月も松の内も過ぎて、
すこしずつ日常に戻りつつある。
2023年もよい一年になりますように。