佐賀町日記

林ひとみ

佐賀の旅 その一

江東区の佐賀町に暮らし始めて、

2012年12月から、ちょうど10年。

小さな町の風景も少しづつ変化した。

当初は窓からスカイツリーがよく見えた。

全国的な人口減少社会のなかで、

江東区の人口は45万人から52万人に増えた。

地価の動きと連動して家賃も上がった。

それでもかつての、1丁目の米穀問屋の町、

2丁目の倉庫の町の面影は、まだわずかに感じられる。

 

そんなタイミングで、

九州の佐賀へとんぼ返りの旅へ出た。

その地名に縁を感じたからという、

ただそれだけのひとり旅。

深川の佐賀町は、

遠浅の海を埋め立ててつくられた江戸期の漁師町で、

深川丼というあさり味噌汁のぶっかけ飯が

郷土料理として知られているけれど、

地名は肥前国の佐賀湊の風景に似ていたためと、

近所の佐賀稲荷神社に記されている。

だから本場を訪れたくなったのは、

あるいは自然かもしれない。

 

長崎空港からバスや鉄道を乗りついで、

はじめて訪れた佐賀駅は、

45年ぶりという大規模な駅周辺整備事業を終えて、

南口駅前広場は11月29日に完成したばかりの、

モダンでシンプルな印象だった。

9月23日に一部開業した西九州新幹線や、

2024年開催の国民スポーツ大会を見据えた、

市の街づくり事業の一環のようで、

建築事務所ワークヴィジョンズを率いる

佐賀出身の西村浩さんがアドヴァイザーだとか。

地域の再生や活性化は全国のトレンドで、

可能性にみちた、とても大事な動向と思う。

 

夜着いて、ホテルに宿泊、

翌朝、観光案内所で地図をもらい、

歩く歩幅で、街を体験する。

一見デパートの高島屋さんみたいにみえる

百貨店・玉屋さんの紙袋がちらほら、

でもルーツは高島屋よりも古いところが素敵。

街角のあちこちに恵比寿さんの小さな石像があって、

鯛の持ち方とか、面もちや佇まいなど、

それぞれユニークで面白い。

陶器屋さんのご主人いわく、

佐賀は昔から恵比寿信仰が盛んで、

市内だけでも800体以上あるらしく、

88か所巡りのイベントもあるよとのこと。

わたしも5つくらいはみつけられた。

 

第10代藩主の鍋島直公と、

第11代の直大を御祭神とする佐嘉神社は、

菊の御紋も入る、とても立派な神社だった。

両手を合わせて、参拝。瞑目。

「東京都江東区の佐賀町から来ました。

 ここに来られてうれしいです。」とご挨拶。

太陽があたたかい。とても静か。

雅楽の向う、大きな木から、

なにかの実が、ぽこん。。。ぽこん。。。ぽこん。。。

と落ちて硬いものにぶつかる音が響く。

拾ってみると黒紫の5mmくらいの堅い実だ。

「すごく大きな木がいっぱい、何の木ですか」

と巫女さんに訊ねると、

「樟/くすです。いちばん大きいのは稲荷神社の向うの、

 650年といわれている樟です。行ってみてください。」

とのこと。しめ縄のかかる、ものすごく大きな木で、

お相撲さんみたいな雰囲気だ。

こんなに大きな木は、はじめてかもしれない。

逢えてよかった。