佐賀町日記

林ひとみ

蒸気機関車 デジャヴ 鳩 

今日は子どもの日。

光の種をまく、

小さな賢者たちの日。

健やかでありますように。

 

といっても、

そう考えるのは大人の領分で、

実際の子どもはもっと多面的で生々しい。

7歳になる甥っ子と、3歳の姪っ子と、

静岡の大井川鐵道を旅してきた。

 

今年のお正月に集まったときに、

機関車トーマスが大すきだった甥っ子が、

「トーマスのアニメはもう見ない」

と突然宣言したので、びっくりして、

「もうすぐ小学生になって、

 お兄さんになるから、無理しているの?」

ときくと「もうあんまり面白くない」という。

「あんなに夢中になって見ていたのに、

 信じられない。どうしたの?」というと、

「だって人間てそういうものでしょう」

といわれて、なんだかどうして。

「でも大井川鐵道には行きたい」らしい。

どういう具合で

アニメと実写のちがいに思い至ったのか、

いまいちよくわからなかったけれど、

いま行かないともう行かないだろうと思い、

ゴールデンウィークの初日から運行がはじまる、

特別急行列車、蒸気機関車トーマス号の

日帰りツアーに申し込んだ。

 

題して

「卒園・入学・4月のお誕生日

 ぜんぶまとめておめでとう

 Let's 大井川 トーマス号!」

のお祝い旅行がはじまった。

7時に品川発のこだまに乗車して70分、

はじめて降り立つ静岡駅は曇り空だった。

午後からの傘マークを心配しつつ、

ツアーのバスに揺られること約80分、

大井川沿いの川根温泉ホテルにて

早めのランチバイキングをとる。

子どもたちと食べると、

まるで味わう余裕がないのはいつもの通り。

だけど楽しい。雨が降りはじめた。

すると甥っ子が、

「ここ知ってる。来たことあるみたい。

 2~3日前の夢でみた。雨で思い出した。」

という。はじめて来た場所なので、

おどろいたけれど、とても印象的だった。

デジャヴというものかもしれない。

子どもたちのパワフルさに負けないように、

とにかくお腹をいっぱいにして、

大井川鐵道千頭/せんず駅で催されている

トーマス・フェアを傘のなかで楽しむ。

はじめはちんぷんかんぷんだったキャラクターたち、

ジェームス、ヒロ、パーシー、

バスのバーティ―、ラスティ―、フリン、などの

等身大のトーマスの仲間たちが一堂に会している。

ほんとうにそっくりに塗られていて、

整備工場の方のご苦労が偲ばれる。

キャラクターのライセンスをもつソニーの系列会社と

大井川鐵道とのコラボレーション。

 

大井川鐵道は、

大井川上流の電力発電と森林資源の輸送のために、

1925/大正14年に創立された産業鉄道だ。

戦後の高度経済成長期に

SL/蒸気機関車の運行を復活したことで、

観光鉄道として名が知られるようになり、

2014年からは英国生まれのキャラクター、

機関車トーマス号の運行を始め、

こと子育て世代に人気を集めているという。

千頭駅から金谷駅まで、全長40km弱の本線の、

およそ80分の蒸気機関車の旅は、

川沿いをゆく、鉄橋をわたる、味わい深いものだった。

なんといっても白い蒸気と汽笛、

走行時のぶっきらぼうな振動が楽しい。

先頭の蒸気機関車トーマス号は、

鉄道省により戦前の1942/S17年に製造された、

北海道で運行されていた一両[C11 227]だという。

1975年に廃車となったが、すぐに大井川鉄道が引取り、

翌年には日本の復活SLの第1号となったというから、

年季が入っている。動態保存とはいうものの、

もう作ることのできないヴィンテージ車を、

大胆に改装してしまって大丈夫なのかとすこし気になる。

わたしたちが乗った客車は、

国鉄時代の1951/S26年製のものらしく、

アニーとクララベルのオレンジ色に塗り替えられて、

外見は楽し気だが、乗車してみると本当に古い。

板張りの床に、空調は扇風機のみ、

窓枠は木製で、上に引き上げるタイプだけれど、

かしいでスムーズに上がらない、

網棚の目はおおざっぱなえんじ色の布紐、

天井の溶接部分の丸いビスの重厚感、

手洗いやトイレは使うのに勇気がいる。

現役で走行していることが奇跡のようだ。

川面の翡翠色がきれい。新緑が雨にぬれて瑞々しい。

ちょうど茶摘みの季節で、

お茶畑はきらきらしている。

 

静岡駅に戻った夕方には、

雨脚はかなり激しくなっていた。

甥っ子の折り畳み傘がふにゃふにゃで、

スニーカーごと水浸し、寒くて、半べそをかいている。

そういうのも思い出のひとつになる。

楽しかった。

 

江東区の家のベランダに、

昨年よく来ていた鳩が久しぶりにやってきた。

左足の指のないびっこの鳩だ。

愛らしい目はそのままに、

からだの色がかなり変わった。

薄いグレーだった体毛が、

深いグレーブラックになっている。

成長したのだろうか。

 

子どもの日、おめでとう。

 

sagacho-nikki.hatenablog.com