佐賀町日記

林ひとみ

詩 青むし

5月のある夜

 

音楽の流れる

スピーカーに

 

小さな青むしが

はりついていた

 

もしかすると

 

音楽がすきな 

未来の蝶かもしれない

 

思いがけない

ちいさななかまと

 

流れる音に

耳を澄ましていると

 

ゆらり

ふわりと

 

あたたかくも

すずやかな

 

夜風が

カーテンを揺らしていた

 

ひょっとすると

風も

音楽を聴いているのだろうか

 

しだいに

カーテンは

 

命あるもののごとく

音楽とともに

 

踊っているようで

指揮しているようでもあって

 

そんなとき

 

音楽が風をおこしたのか

風が音楽を奏でているのか

 

わからなくなる

 

今夜の

すこしだけ賑やかな演奏会も

たけなわを過ぎ

 

風とともに

終楽章はとじられて

 

あとには

魔法をとかれたように

 

豊かな静寂と

ちいさな青むしが

のこされた

 

さてと

青むしを

 

ベランダの

植物の葉へと見送り

 

おやすみなさい

いつかまた会おうねと

 

5月の夜の

青い夢をみる

 

そこでは

 

未来の蝶が

あたかも

音楽のように 

 

ゆらり

ふわりと

 

羽をひろげて

舞っているのだった