佐賀町日記

林ひとみ

皇居参観

成人の祝日のあたりに、

はじめて皇居の一般参観に参加した。

 

その日は寒くお天気も不安定だったけれど、

午前と午後に一回ずつ設けられている一般参観の、

参加した午後の回には、おそらく300人近くが集まっていた。

東京駅の西方、皇居の東側の桔梗門付近で

12:30から当日受付整理券が配布されるということで、

12:40頃に着いたときには97番だった。

それにしても外国人の多いこと多いこと、

近年は参観者の半数以上を占めるのだという。

13時から順に、身分証明書を提示しつつ入場する際には、

「マスクを外してお顔をみせてください」と

形式的だけれど運転免許証の写真と照応しているふう。

誘導されるままにぞろぞろと、

手荷物検査と参観申込書の記入を経て、

お休所の窓明館/そうめいかんに集められた。

土産屋もあって、菊の形の最中とかチョコレートとか、

菊の紋入りの財布とか椀などが、物珍しそうに並んでいた。

全員が入場手続きを済ませるのに40分はかかっただろう、

その間、社会科見学のようなVTRをみて待ちに待つ。

 

ようやく13:45からスタートした参観は、

ガイド氏の誘導のもと、

英語のグループを先頭に、中国語のグループが続き、

最後に日本語のグループという順で、

約2.2㎞、70分程のコースを辿った。

ちょうど小雨が降りだしたので、

折りたたみ式の傘で冷たい雨粒をしのぎつつ、

白い息を吐きながら、いくぶん高低差のある皇居内を散策する。

 

参観できるのは南側のごく限られた一部で、

宮内庁のあたりと、7つの棟からなる宮殿の東庭/とうていと、

二重橋として知られる正門鉄橋/せいもんてつばしと、

遠目に仰ぎみる富士見櫓や伏見櫓に、

乾通り沿いの石垣の下にひろがる蓮池壕などだった。

 

見応えがあったのは、

熊本の加藤清正公の指揮で築かれた富士見櫓の石垣で、

主に伊豆の自然石を積み上げた野面積み/のずらづみという、

武骨なのだけれど堅牢といわれる石垣が、雨に濡れて美しかった。

 

また「宮殿」のイントネーションについての挿話も印象に残った。

マスコミをはじめ一般に聞かれることが多いのは

「きゅう⤴でん」と「う」が上がるけれど、

宮内庁では、たとえば「旧」の字と同じ具合に

「きゅう⤵でん」と「う」が下がるイントネーションなのだという。

ささいなことだけれど、その内向きの頑なさに、

宮内庁の矜持が見え隠れするようでなんだか面白い。

 

その宮殿の南庭/なんていに

小さなお山のような二つの大刈込/おおかりこみがあって、

数十種類の植物が組み合わさり混然一体、

6mほどの高さの半球に整えられていて、目をひいた。

ほかにも有田焼のクリーム色の灯篭をはじめ、

力と技の見せ所が随所に用意されているのだろう。

 

両陛下のお住まいは、西側の半蔵門の付近だそうで、

まさに都心のブラックホールだけれど、

江戸城本丸のあった東御苑は1968/S43年に公開され、

いつでも自由に無料で散策できるところが平和でいい。

 

新年1月2日と天皇誕生日には

宮殿の長和殿のバルコニーに両陛下がお出ましになり、

東庭にて誰でも一般参賀できるそうだけれど、

自国のことながらつくづく不思議な象徴天皇制と思う。

そして日本固有の元号も5月に新しくなるのだった。 

 

参観を終えて再び桔梗門をまたいだ頃には、

雨も上がり、まぶしいくらいの西陽に照らされて、

皇居前広場に敷きつめられた白い小石がきらきらと光っていた。

 

私は日本に生まれ育ち、日本に住んでいるけれど、

たとえどこの国や地域に住んでいようと、

日々をツーリストの気持ちで過ごせたら理想的だ。

この世は仮住まい、と世界の古典にあるとおり、

その開かれた透明な目で、新鮮な気持ちで、

いつも世界に接していたい。