佐賀町日記

林ひとみ

卒業試験公開演奏会

お正月の三が日が明けてすぐ、

上野の音楽学校の奏楽堂で行われた

卒業試験公開演奏会を聴いた。

 

12月から冬休みをはさんで1月いっぱい行われている

音楽学部の卒業試験公開演奏会は、

年明けすぐの2日間に、声楽科55名の

卒業試験を兼ねた演奏会が行われ、

その第1日目にあたる28名の舞台を聴いた。

 

あたたかくおだやかな日がつづいているなか、

会場には100名程だろうか、

ご家族や友人をはじめ多くの方が聴きにきていた。

それぞれ10分前後のステージは、

様々な個性が輝る、堂々とした立派なものだった。

プログラムは、歌曲とアリアの組合せが多く、

その選曲には人柄がにじみでているようでたのしい。

熱心に勉強して自分をよく知っているのか、

みな自分に合った曲を選んでいると感じた。

一言では語りえないけれども、

陽気な人、華のある人、艶やかな人、端正な人、

パワフルな人、麗しい人、儚げな人、スマートな人、

スタイリッシュな人・・・など、というふうに印象された。

なかにはずいぶんな難曲にチャレンジする人もいて、

大学4年生で歌えるのかとびっくり感心するばかり。

 

ふつうの演奏会といささか趣が異なるのは、

演奏者/生徒が舞台に登場するとたちまち

「学業の修了おめでとう」というニュアンスの

あたたかい拍手に包まれることだった。

ほっこりした雰囲気も束の間、

試験特有のきりりとした緊張感のなかで、

いつもどおりに演奏できるのは力のいることだ。

そのうえで本番という特別な場の力を借りて、

いつも以上のことができた人もいたかもしれない。

 

たとえば会場からうなり声が聴こえてくるような、

心に響くすばらしい歌唱に、思わず拍手も熱くなる。

「あれ、この曲こんなに素敵な曲だったかな」というように、

知っている曲の、知らなかった美点を、

初めて知ることがあるから、とても不思議。

それが歌い手に委ねられている創造性や芸術性なのかもしれない。

同じように、伴奏の技術も奥深いものだ。

 

朝10時から夕方16時近くまで、

幾度かの休憩をはさみながらの、

聴きごたえのある公開試験。

 

人が歌を奏でることのすばらしさに感じ入る

新年1月だった。