佐賀町日記

林ひとみ

とらや赤坂本店 | 内藤廣

先日、リニューアルした「とらや赤坂本店」へ行った。

ずいぶん長いこと建て替え工事中と思っていたら、

内藤廣氏の設計による新しい本店は、

すっきりとした佇まいのなかに、

木のあたたかみを感じさせる、

たおやかな空間に生まれ変わっていた。

 

地上3階・地下1階の4フロアからなる低層の建物は、

前面の大きなガラス窓が内と外を穏やかにつないで、

招き入れられるように中へはいると、

広々としたエントランスが凛と迎えてくれる。

ゆるやかな階段がB1Fと2Fへのびて、つぎのフロアには

どんな空間がひろがっているのだろう、とわくわくする。

壁や天井には吉野の檜や黒漆喰壁などが贅沢にとりいれられ、

きめ細やかで丁寧な職人技を感じさせる随所の設えは、

研ぎ澄まされているけれど尖っていなくて、

優しいけれど甘くない、匙加減が素敵だった。

リニューアルに丸3年かけているのも然りなのだろう、

内藤氏は松尾芭蕉の不易流行の思想を参照し、

「simple and elegant」を表現したという。

 

B1Fのギャラリーでは、

第1回企画展「とらやの羊羹デザイン展」が開催され、

大正7/1918年の菓子見本帳から450点程の図案を

パネルでみることができた。

羊羹の四角い断面図だけれど、

色味がやさしく、意匠が奥ゆかしく、

ひとつひとつの絵柄と由来を楽しく閲覧した。

虎屋さんの創業は室町時代後期の京都だから、

江戸の元禄8/1695年の見本帳も現存しているのだという。

古くは注文方法が異なっていて、限られたであろう顧客が、

見本帳をみて注文するスタイルだったそうだ。

現代でも特別感をもとめるラグジュアリー志向の人たちに

喜ばれそうな販売方法ともいえそうだ。

ほかに「羊羹づくりの道具や材料」「日本各地の名所にちなんだ羊羹」

などの展示も併設され、寒天をかきまぜる巨大な鍋やへらは、

実際に触ることができ、新鮮で楽しかった。

 

3Fの菓寮/かりょうは、

祝日ということもありとても混んでいて、

10組ほど、1時間近く待った。

天井が高く、ゆったりとしたつくりなので、

長居したくなる気持ちもよくわかるから、

待っている人たちものんびり構えているようにみえる。

席についた時にはすっかり日も暮れて、

窓越しに青山通りと赤坂御所の緑を眺めつつ、

本店の特製羊羹「千里の風」とコーヒーをいただいた。

虎の模様を模した羊羹は、見た目よりもやわらかい味で、

コーヒーが勝ってしまったのだけれど、どちらもとても美味しかった。

その日は小雨模様でクローズしていたが

テラス席はお天気の良い日には気持ちよさそうだ。

  

もしかすると

平成最後の天皇誕生日になるかもしれない祝日の23日に、

3年ぶりくらいに会った友人たちと共有したとらやさんでの時間は、

きっとすべてがひとつの絵巻物のように記憶されるのだろう。

とても楽しいひとときだった。

 

富士山のふもとの御殿場にも

同建築家が手がけた工房と菓寮があるようなので、

いつか行けることを楽しみに。