佐賀町日記

林ひとみ

声楽公開レッスン ウィリアム・マッテウッツィ

先日、国立音楽大学・講堂小ホールで

声楽の公開レッスンを聴講した。

 

講師はイタリアから招聘された

William matteuzzi/ウィリアム・マッテウッツィ教授で、

2015年以来、毎年来日し講義されているそうなので、

今年で4年目・4回目になるのだろうか。

イタリア北部・ボローニャ出身のテノールで、

とくにロッシーニの歌い手として名高いそうだが、

バロックから近代までレパートリーは幅広く、

またフランス音楽にも造詣が深く、

hight F をファルセットではなく実声で歌える、

驚異的な高音域をもっていらっしゃるとのこと。

 

今回のマスタークラスでは4人のレッスンが公開され、

すべてのステージが充実し見応えがあった。

昨年以前にも何度かみていただいている受講生もいて、

そういう場合、声も気心も多少知れているというふうで、

よりパーソナルで具体的なレッスンへと進展したことも、

興味深かった。

 

ソプラノ2名、メッゾ・ソプラノ1名、テノール1名の

各40~50分前後のレッスンは、

イタリア風の?「あなたのいいところは〇〇」からはじまって、

曲の構造や演奏記号を確認しつつ、

具体的な課題にフォーカスしてゆくという流れだった。

公開レッスンというデリケートな環境にある

受講生をリラックスさせ、聴講生たちもふくめて、

指導をよりよく受容できるような雰囲気に満ちていた。

 

各レッスンに共通する発声のトピックスは明瞭だった。

 発声の3本柱として、

・一定の息を送りつづけること。

・マスケラに集めた響きをつくること。

・軟口蓋をあげて喉頭をさげて、共鳴空間をつくること。

をあげていた。

 

また度々「molto molto molto 」と、

時には片言の日本語で「もっと もっと もっと」といって、

軟口蓋をあげてその上を音が通過するように、

ハミングの響くところ・マスケラをつかって、

頭部から音響がでてゆくように、

子音 r や d がはっきりと聞きとれるように、

などがくりかえされた。

 

よくいわれるアッポッジョ/支えについては、

意識しすぎて必要以上に力んだり踏んばったりすると、

つられて胸部も緊張して硬くなり、

息が通らなくなって、音がとじこもってしまうから、

支えが必要と思ったら、とにかく息を送ること。

というアプローチ法は明快だった。

 

換声点/パッサージョあたりの音域で不安定になったり、

母音 a や e が、ひらきすぎたりおおきすぎたりして、

ピッチが落ちてしまいがちな問題についても、

実際に歌って音の違いを明確にしていただき、わかりやすかった。

音を聴きわける耳があって成立するのだと感じた。

 

所々で表現を変えながら伝えられた問題の解決法は

かけがえのないもので、たとえばよく知っているものでも、

とても新鮮に、新しいことのように聴こえたから不思議だ。

高音は力をつかってださずに、響きを一点に集める。

息がまわらないと思ったらトリルをすると楽になる。

頭に r をつけてみると余計な力が抜けて息がとおりやすくなる。

ni・mi で響きの場所を確かめてから歌詞でうたう。 

などなど。

 

3時間半にわたるレッスンは

ほんとうにあっというまだった。 

 

「発声の説明は十分で済むが、身につけるには十年かかる」

というルネ・フレミングの言葉を思い出しながら、帰路につく。

とにかく楽しくて。

また来年も聴講したい。

 

 

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