佐賀町日記

林ひとみ

あつい夏

2018年の夏はほんとうに暑かった。

ときどき台風が通り過ぎて

つかの間の涼しさにほっとすることもあったけれど、

またすぐに太陽がギラギラと、

そのうちにメラメラと、

降りそそぐ熱量がすさまじかった。

 

小学校の中学年頃だったか、

夏休みの宿題のひとつに絵日記があった。

クラスメイトのある男の子のそれは、

7月27日「今日もあつかった」

8月11日「今日もあつかった」

8月23日「今日もあつかった」という調子で、

その日の出来事を象徴する絵に添えられた言葉は

ほとんど「今日もあつかった」だった。

当時はなんだかちょっと可笑しいような、

いい加減に済ませたように感じたのだけれど、

あるいはそうでもなかったのかもしれない。

まさに今年の夏は、

ほんとうに毎日「今日もあつかった」。

 

人間もたいへんだったけれど、

植物もさぞたいへんだったと思う。

私たちは必要に応じて、水を飲んだり、

日陰にはいったり、エアコンを使うことができる。

植物は人の羨むような光合成という天性をもつ一方で、

自分の意志で水を得たり、場所を移動することはできない。

その場所で、どのような環境でも生きようとするだけだ。

街路樹はおおかたくったりしているし、

我が家のベランダの植物たちも、

鉢の中でじっと日照りをやり過ごしている。

かなり堪えている様子なので、

できるときは朝と昼と夕と夜に、給水する。

例年の夏は朝と夕だけで問題なかったのだから、

今年の夏のあつさは特別なのだろう。

 

そのような猛暑のつづくなか、

先日4日間、家を空けることがあった。

やむを得ぬこととはいえ、

ベランダの植物たちが気がかりで、

滞在先では東京都江東区に雨が降るように祈った。

雨乞いは天に通じただろうか、

そうこうして帰宅してみると、

やはり植物たちはみな瀕死の状態だった。

彼らの悲鳴がきこえるようで、

大急ぎで給水し、給水し、給水して、

12鉢のうちのほとんどは、

翌日および翌々日にはなんとか一命をとりとめた。

ダメージがのこったものもあったが、

なんとか気を取りなおしてくれたようで、ほっとした。

けれども、水がだいすきな北海道産のミントと、

春に花咲く山形県産の啓翁桜/けいおうざくらは、

致命傷だったのか、どんどん衰弱してゆくばかり。

桜の葉はずいぶん枯れ落ちてしまい、

枝先からのぞく新芽も、やせて元気がない。

なんとか持ちなおしてくれますように。

ミントはほとんどすべて干からびてしまい、

一週間後にはもはやこれまでと諦めかけた。

とすると、まるで錯覚でもみるように、

枯れ果てた茶褐色の枝葉の奥底から、

ほんのちいさな緑がぽつと頭をのぞかせたのだ。

はじめは半信半疑だったけれど、

数日を経てはっきりとした若葉がぽつぽつと、

地面近くから芽吹きだしたので、

まるでキリストの復活の奇跡をみているように歓喜した。

ほんとうによかった。

 

また、数日の干ばつにもめげず、

すこぶる元気だったのは、

4月に挿し木をしたばかりのバラの幼樹だった。

なるほどアフリカでも栽培されているというだけあって、

暑さと乾燥には強いらしい。

新葉をぐんぐん伸ばして、ちいさな棘もピンピンと、

むしろ絶好調といったふう。

 

暦のうえでは初秋といえど、

あつさはもうしばらく続きそうなので、 

すこしでもバラの気持ちで、

元気に9月を迎えたい。