佐賀町日記

林ひとみ

深川のお不動さん

1月の終わりころ、ぎっくり腰にはじめてなった。

朝起きしなに、物を取ろうと、

ほんのすこし前屈した瞬間に、激痛がはしった。

 

背中から腰にかけての鋭い痛みに、

しばらくの間、動けなくなり、

症状が落ちついてから、近所の整体院へ初診に伺うと、

「あぁ、それはぎっくり腰ですね、

 冬の朝に起こりやすいのですよ」ということだった。

 

ぎっくり腰は、

腰の筋肉の断裂・損傷・炎症などによる

急性の腰痛をさす俗称で、原因や症状は様々らしい。

幸い軽症で、数日安静にすれば、

1週間ほどで自然治癒するといわれて、ひと安心。

 

ところが、すこし良くなってくると、

眠る前の習慣のストレッチをして、

また左の股関節周りの筋肉を痛めたり、

すっきりしないまま、2月も中旬に。

 

小康状態には歩くと良いときいて、

先日は江東区門前仲町

深川不動堂の縁日と、富岡八幡宮の青空市へ行った。

 

門前仲町は、お不動さまと八幡さまのある寺町で、

東西に走る永代通り沿いの商店街/約400mと、

そこから北へ伸びるお不動さまの参道/約150mとに、

さまざまな露店が軒を連ねていた。

青果・乾物・惣菜・花木・生地・金物・雑貨など、

みているだけで楽しくて、足どりも軽やかになる。

 

ふと、お不動さまから八幡さまへ向かう道すがら、

ものすごくユーモラスな問答が聞こえてきた。

5~60代くらいの女性がおひとり、

深川不動さん、どこですか?」と道を訪ねると、

犬と散歩している土地のお兄さんらしき人は、

深川不動産?いやぁ、ちょっと・・?」と答えて、びっくり。

メトロの駅から出たばかりで方角がつかめないのか、

女性はもう一度「深川不動さん」ときいてみるけれど、

男性もやはり「深川不動産?」といって、

あたりをきょろきょろと見回している。

わたしは足早に通り過ぎてしまったのだけれど、

参道の目と鼻の先での、なんとも珍妙なやりとりに、

心のなかで大笑いしてしまう。

 

穏やかによく晴れた暖かい一日で、

陽射しには春の気配が満ちていた。

人々もどこか寛いでいるようにみえる。

ひととおり街を楽しんで、

徒歩20分ほどの帰路を辿りながら、

深川不動さん、どこですか?」

深川不動産?いやぁ、ちょっと・・?」

というやりとりを思い出すと、なんだか可笑しくて、

腰の痛みも和らぐような気がするのです。