佐賀町日記

林ひとみ

雨の9月

東京は

曇りや雨の多い、涼しい9月だった。

 

雨の日のしっとりとした静けさも心地よいが、

雨上がりの透明な空気を胸いっぱいに歩くのは

とりわけ気持ちがいい。

太陽の光がきらきらと、水かさを増した隅田川に反射し、

傍らでハトは羽を広げて日干しをしている。

ひさしぶりの太陽に、みなほっとしているようだ。

寄り道をしながら

いつまでも歩いていたい気分になる。

 

ふと金木犀/きんもくせいの香りに、足がとまる。

こってりと甘い、ユニークな香りだ。

原産は中国南部で、

日本には江戸時代初期に渡来したという、 

秋の季語でもある樹花だ。

四季の巡り、自然のインテリジェンスがまたうれしい。

 

そういえば数日前、

雨の合間にベランダに出ると 、

クローバーとミントの寄せ植えの鉢の余白に

何か知らない植物が発芽していた。

ハーフサイズのうずらの卵のような形態の

種とも卵とも見分けのつかないものが

2~3か月前から土のうえにあったのだが、

長雨の間にぱっくりふたつに割れて

いつのまにか芽が5㎝ほど伸び、

米粒大の小さな葉が3枚ついている。

ときおりの強い雨風にも、

クローバーの陰に守られているようだった。

 

鳥たちの贈りものだろうか、

どんな植物か、生長が楽しみだ。

 

雨と太陽、

それぞれの豊かさに育まれた9月だった。