勝どきの第一生命ホールで聴いた。
ほぼ満員の客席は、創立59年という合唱団の
厚みのある歴史を物語っているかのよう。
演奏会は4つのステージで構成されていたが、
とくに後半のふたつのステージを楽しく聴いた。
明るい歌声と、白を基調とした衣装が清々しい前半から
休憩をはさみ、後半の「近代日本名歌抄」は、
大正から昭和初期に親しまれた歌謡曲や童謡を
信長貴富/のぶながたかとみが編曲した作品群だ。
本ステージでは「あの町この町」「宵待草」「ゴンドラの唄」
「青い眼の人形」「カチューシャの唄」が演奏されたが、
リラックスした、のびのびとした歌唱に心が和む。
様々な実人生が集い交わるアマチュアの合唱団の、
歌うことを生業とした歌手たちには持ち難い
ある種のリアルさを演奏から感じることができ、有意義だった。
鮮やかな編曲により新しい息吹が吹き込まれた大衆歌は、
黒澤明の映画「生きる」の「いのち短し 恋せよ乙女」とは異質の
明朗な歌として印象にのこった。
最終ステージでは、
1983年生まれの作曲家・面川倫一/おもかわのりかずに委嘱された
組曲「サムのブルー」が初演された。
若かりし頃の、宙を舞うような熱気あふれるテキストに寄り添った、
骨太でまっすぐな、衒い/てらいのないサウンドという印象だ。
作曲家が合唱団を理解し、誠意をこめて作曲していること、
合唱団が作品を愛し、大切にしていることが伝わってくる
幸福なコラボレーションだった。
新しいものがあちこちで、次々とうまれている。
それらが、破壊ではなく建設を、
疑いではなく肯定を、悲しみの先の喜びを希求する、
純粋で強度のある創造であると、しあわせだ。
そろそろ、今年も蝉が鳴きはじめた。
蝉たちの共鳴のすばらしさといったら。
たまたま見たふたつに割れた胴体は、
ほんとうに楽器のように空洞だった。
夏の名歌手たちは、なにを歌っているのだろう。
彼らの言葉が聴けたらいいのに。