佐賀町日記

林ひとみ

演奏会 CANTUS ANIMAE The 20th Concert

混声合唱団Cantus Animae/カントゥス アニメの

第20回演奏会を第一生命ホールで聴いた。

 

Cantus Animaeの51人のステージは、

数年前に他界した作曲家/三善晃の作品と、

20回という節目の演奏会のために委嘱された

若手の作曲家3名の作品とで構成され、

20世紀から21世紀に引き継がれる

「つながる魂のうた」と題されていた。

 

委嘱というかたちで

同時代にうみだされた作品がとりわけ興味深いのは、

現在を映し出すとともに、

未来を設定するテンプレートのひとつにもなるからだ。

 

第Ⅰステージの委嘱初演作品は、

団員でもある安藤寛子の「智恵子の手紙」。

彫刻家/高村光太郎の妻智恵子が、

精神を病み恍惚の人となる直前の数年間に

実母に宛てた手紙と遺書をテキストとした本作は、

意欲的で前衛的な、女性ならではの作品という印象だ。

自らを追い詰め、壊れてしまった智恵子の心が

安らかであるようにと祈るばかりだが、

抑圧された女性性の解放という

現代的なテーマのひとつともいえる主題だと感じた。

 

第Ⅱステージの委嘱初演作品である

森田花央里の「石像の歌」は、ドイツの詩人リルケの作品を

作曲家自身の言葉で翻訳したテキストが印象的な、

ロマンティックで瑞々しい作品だ。

愛を求めると同時に恐れてもいる

傷つきやすい相反した心を、

曲の終結部が象徴しているようでユニークだ。

同時に数年前の作品、

竹久夢二の詩からなる組曲「青い小径」も演奏されたが、

どちらも合唱曲についてまわりがちな

野暮ったさを感じさせないところに好感を持った。

 

第Ⅲステージの委嘱初演作品は、

松本望の「二つの祈りの音楽」で、

文学者宗左近/そうさこんの詩による大きな合唱曲だ。

一曲目は、戦争と神を題材にした圧倒的なテキストに、

音楽は負けておらず、共に運命と戦っているようで胸に迫る。

つづく二曲目の、すべてが清められてゆく祈りの音楽に、

自分を委ねて歌うことができる幸せと、

自分を委ねて聴くことができる幸せとが一体となり、

終幕を迎える。

 

ラテン語で「魂の歌」という意をもつCantus Animaeのサウンドは、

ふくよかで立派なため、

それぞれの作品との相性がはっきりしていると感じたが、

そのようなこと以上に、音楽のもつ力は計り知れず、

また尊いものだと確認した。

 

心地よい余韻と臨海の海風につつまれながら、

そのままどこまでも歩いていけるような気がして、

時間を忘れて約3kmの帰路を歩いたのだった。