佐賀町日記

林ひとみ

さくら

ベランダのさくらが開花した。

 

7年前の春に、花屋でみつけた枝ものの桜を、

植木鉢に挿し木した、小ぶりの樹木だ。

種名を啓翁桜/けいおうざくらといい、

毎年、淡いピンク色の花を楽しませてくれる。

 

啓翁桜は、

山形県の特産品として栽培されているが、 

ルーツは九州の福岡県久留米市にあるようだ。

昭和初期に、中国のオウトウを台木にし、

ヒガンザクラを接いだところ、

穂木であったヒガンザクラから枝変わりしたのだという。

表記も、敬翁桜から、

いつのまにか啓翁桜へ変化したそうだ。

 

秋の紅葉をへて、枯葉を落とす頃、

寒々とした枝に、人知れずつぼみは現れる。

冬のあいだ、ふくらみに変化はみられないが、

幹や枝は赤みを増し、

内奥で生長をつづけているのがうかがわれる。

 

寒暖をくりかえし、また雨をはさみながら、 

訪れる春の陽光とあたたかさは、

冬を越した生命たちにとって、ひとしおの喜びだ。

日本では、出会いと別れの季節でもある。

 

 

ピンク色を好み、

春に生まれ、春に逝った、

その季節を名前にもつ、母を思い出す。