ピエール・トレトン監督によるドキュメンタリー、
「イヴ・サンローラン/Yves Saint Laurent - Pierre Berge , L'amour Fou」を観た。
2008年にサンローラン氏が逝去してから、
その実像にせまる映画が3本制作されている。
2010年の本作と、
2014年の「イヴ・サンローラン/Yves Saint Laurent」、
および「サンローラン/SAINT LAURENT」だ。
いずれもフランスで制作されており、
本国でのその存在感の大きさがうかがえる。
本作のプロローグには、
2002年の氏による引退会見が引用されている。
18歳でクリスチャン・ディオールのアシスタントになり、
1957年/21歳で師の急逝に接し、その跡を継ぎ、
翌年の初コレクションより成功に恵まれたものの、
その後アルジェリア戦争での兵役による衰弱と、
ディオール経営陣との不和による解雇を経て、
1962年にパートナーとともに自身のメゾンを立ち上げる。
女性のワードローブの発明、プレタポルテの創始、
黒人モデルの起用など、時代を変革する華々しい成功とともに、
神経症や、酒・薬への依存を、長い道のりをかけて克服した、
20世紀を代表するクチュリエだ。
ドキュメンタリーである本作は、
公私にわたるパートナーのピエール・ベルジェ氏への
インタビューを中心に構成されたものだ。
よい時もそうでない時も、50年間ともに暮らし、
仕事をし、最期を看取ったという、
サンローラン氏同様に魅力的なベルジェ氏より、
分かちがたい絆で結ばれたふたりの人生が、
愛を交えて語られる。
並行して、ふたりが20年をかけて収集した美術品を、
オークションに出品する過程が、伴奏される。
新たな生をうけて羽ばたいてほしいという願いのもと、
セヌフォ族の彫刻、オリエンタルなオブジェ・・まで、
錚々たる美術品に囲まれた生活空間が解体されてゆく。
モードの帝王・サンローラン氏の引退会見は、
たいへんに誠実で文学的という印象だった。
人生で最も大切な出会いは、
自分自身と出会うことなのだ、と語っているが、
その険しくも稀有な道のりを想うとき、胸が熱くなる。
ベルトラン・ボネロ監督の「サンローラン」は、
成功の渦中に多忙を極め、狂気へ傾倒していく様が、
ドラマ仕立てに、テンポよく綴られた作品だ。
晩年のサンローラン氏を演じた、
ヴィスコンティ作品でおなじみのヘルムート・バーガーが、
かつて主演した「地獄に堕ちた勇者ども」をベッドのなかから鑑賞し、
涙を流すシーンが挿入されるが、その遊び心にも拍手をおくりたい。
ジャリル・レスペール監督の「イヴ・サンローラン」と、
氏の生前1994年に制作された、肉声を交えたドキュメンタリー、
ジェローム・ドゥ・ミッソルズ監督の「イヴ・サンローラン その波乱の人生」も
いずれ観てみたいと、興味はつづく。