ルキノ・ヴィスコンティの「白夜」を観た。
1957年に制作された、監督5本目の作品だ。
ロシアの文豪フョードル・ドストエフスキーが、
1848年・27歳のころに書いた、同名の中編小説を原作とした、
数夜のはかない恋物語。
孤独で夢想家のマリオ/マルチェロ・マストロヤンニは、
ある夜、橋の上でナタリー/マリア・シェルと出逢う。
彼女に惹かれるマリオの気持ちをよそに、
1年後に再会することを約束し、
離れ離れになった恋人/ジャン・マレーを待ちつづける、
ナタリーの恋物語が語られる。
ちょうど1年が経つ今宵、
いっこうに現れぬ恋人への想いは、ひととき、
マリオへの友愛に傾きかけたようにみえたが、
雪の降り積もったその夜、恋人は橋の上に現れる。
マリオへ感謝と別れを告げ、
恋人のもとへ向うナタリーであった。
原作の舞台、19世紀の夏/白夜のサンペテルブルグは、
撮影当時の冬/雪の降るイタリアの港町へおきかえられ、
ニーノ・ロータの音楽も相まって、
よりロマンティックな物語に仕上がっている。
マリオの恋は成就しなかったが、
「きみが幸福な日だけ目を覚ます、おとぎの中の女(ひと)にしてあげたい」
と謳うような、心からひとを愛する気持ちは、
かけがえのないものだ。
原作および映画には
歌劇「セビリアの理髪師」を観劇するシーンがあるが、
小説「白夜」が書かれる数年前、ロッシーニ作曲による
「セビリアの理髪師」はペテルブルグで大成功をおさめたそうだ。
ドストエフスキーは、そのような背景にあるこのオペラを、
創作に巧みに絡ませることで、物語に奥行をもたせたようだ。
ミラノ・スカラ座とともに育ち、
演出家としても多くのオペラを手がけたヴィスコンティが、
「白夜」を原作に選んだ理由のひとつは、
そんなところにもあるかもしれない。
「セビリアの理髪師」のロジーナのごとく、
ナタリーがマリオとふたりで、
待ちわびる恋人へ手紙をしたためるシーンの、
脚色およびモノクロの映像が、とても美しい。
1971年にロベール・ブレッソンによっても映画化され、
現在では3氏により日本語に翻訳されている「白夜」。
時代を貫いて、強い光をはなちつづける
作品とその作家たちに、
白夜のごとく、魅せられたひとときだった。