カール・Th・ドライヤーの「Ordet」を観た。
1979年日本公開時につけられた邦題は「奇跡」だが、
デンマーク語の原題「Ordet」は、
ギリシャ語「Logos」に相当する、
神の御言葉、というニュアンスであるようだ。
映画監督カール・Th・ドライヤーの、
全14本の長編のうちの、13本目にあたる本作は、
デンマークの牧師・劇作家・詩人である、
カイ・ムンクの戯曲を原作としている。
1925年に書かれたのち、
1932年に初演され好評を博したそうだ。
初日に観劇し、大きな感銘をうけたドライヤーは、
紆余曲折を経て、1954年に映画化することとなる。
ユトランド半島の小さな村を舞台とする。
大地主であるボーオン農場の一家を中心とした、
キリスト教の信仰のあり方や、その宗派の違いによる対立、
神の証である奇跡をめぐる、群像劇だ。
ボーオン家の、長男は信仰をもたず、
次男は自らをイエス・キリストであると言動し、
三男は宗派の異なる家の娘と相愛しているため、
老齢の家長には悩みがつきない。
それらのすべてを一所に解決するのが、
太陽のような存在感をまとう、長男の嫁の、
死産および死亡と、蘇りである。
ドライヤーは、原作に忠実に室内劇の手法で、
端正なモノクロの映像をつくりだす。
物語のなかで、演者たちが瑞々しい。
脚本は映画用に、ドライヤーによって
書き改められたものであるそうだが、
語られる言葉、語られない言葉が、美しい。
翻訳の力も大きいのだろう。
ところどころで、
イングマール・ベルイマンの作品を
観ているような錯覚にさそわれた。
物語がカタルシスへ向かい、たかまってゆくなか、
少女が重要な役割を演じるが、
神にもっとも近い存在であるのは、
おそらく彼女だろう。
ドライヤーの代表作のひとつと評される「Ordet」。
普遍的であり、本質的な命題は、
2016年の現在にも、力強くせまってくる。