エルンスト・ルビッチ | 生きるべきか死ぬべきか

エルンスト・ルビッチ/Erunst Lubitsch の 映画「To Be or Not to Be/生きるべきか死ぬべきか」を観た。 第二次大戦中の1942年にアメリカで制作された本作は、 恋愛と戦争サスペンスとが織り込まれた シニカルなコメディタッチのモノクローム映画だ。 物語…

バラの樹

子どものころ住んでいた祖父母の家の庭に 淡いピンク色のバラの樹があった。 まだ幼児ほどの背丈の若い樹だったように思う。 ちょうど家を建替えて間もない頃だったので、 気ままに造園していたのかもしれない、 あるとき祖母が挿し木という園芸方法を教えて…

ミルチャ・カントル展 | 銀座メゾンエルメス

先日、銀座メゾンエルメスのギャラリーで ミルチャ・カントル展を観た。 「あなたの存在に対する形容詞」と題された個展は、 1977年ルーマニア生まれのアーティストMircea Cantorが、 人間の存在性というテーマに取組み、 たとえば空気のように顧みられにく…

詩 しゃぼん玉

まんまる きらきら 夢いっぱいに ふくらんだ しゃぼん玉のような こどものひとみが いつしか 音もなく はじけて しぼんでしまうことがあっても だいじょうぶ 地球に やってきたばかりの 幼いたましいは 色々なことを 経験したくて 好奇心で いっぱいだから …

魔の山 | トーマス・マン

ちょうどひと冬をかけて、 ドイツの文豪トーマス・マンの 「魔の山/DER ZAUBERBERG」を読んだ。 1924年に発表された全2巻の長編小説は、 スイスの高原サナトリウムでの療養生活を舞台とした 青年ハンス・カストルプの7年間にわたる成長物語であり、 同時に…

熊谷守一 生きるよろこび

桃の節句が過ぎた頃、 「熊谷守一 生きるよろこび」展を 竹橋の国立近代美術館で観た。 画家・熊谷守一/くまがいもりかずの 没後40年の記念展でもある本展は、 油彩200点と、日記・葉書・スケッチ帳などの 資料およそ80点とが一堂に会した、 はれやかな大回…

詩 藍の月

昼と夜の 淡いはざま 夕暮れどきの ゆらめく空に おとぎ話のような 三日月が ぼうっと うかんでいた やわらかな 藍と桜色とに 彩られた世界は めくるめく 甘美なシンフォニーを 総奏しているかのようだった 青と赤の 優美なドレスを纏った イソヒヨドリが 飛…

さくら 2018

ベランダの啓翁ざくらが開花した。 ピンク色の可愛らしい花に 今年も逢えてうれしい。 ひとあし先の2月に花を咲かせる 寒ざくらや河津ざくらは、 春の本格的な訪れをほのめかせて、 人の心を次の季節へと誘う予言者のよう。 そして、冬と春がせめぎ合う ドラ…

小石川植物園 梅花見

先週末、早春のやわらかい陽射しの散歩日和に、 梅の花が見頃を迎えた 文京区の小石川植物園を散策した。 東京メトロ・丸の内線の茗荷谷駅から 坂を下ること徒歩10分ほどの距離にある植物園は、 都市のなかにありながら半ば隔絶された 大きな緑の箱庭という…

詩 春いちばん

くる日も くる日も くるくると 公転している地球に 季節がめぐるように ひとの心にも 四季があるとしたら 冬の厳しさを やり過ごすように ぎゅうぎゅうと 胸にしまわれた いたみや かなしみは 陽気に 吹きあれる 春いちばんに あずけましょう また 動物たち…

W3 ワンダースリー | 手塚治虫

漫画家・手塚治虫/1928-1989の中期の名作 「W3 ワンダースリー」を読んだ。 きっかけは今年の初夢についての友人との談話だった。 「今年は手塚治虫の漫画ワンダースリーの 物語の終盤がそのまま夢にでてきた」 と唐突に話にのぼるも、ワンダースリーを知…

帯状疱疹とお正月

2018年のお正月は帯状疱疹とともにやってきた。 なにかと気忙しい年末は12月30日の夜に 唐突にはげしい腰痛がはじまった。 大掃除というほどではないが、 普段は手が回りにくい浴室のタイルとか、 冷蔵庫の裏とか、クローゼットの下とか、靴箱とか、 あちこ…

詩 ゆめ

夢をみている 夢をみた 夢のなかの またその夢 そばにいる君と鳥と 夢のなかでも遊ぶ わたしたちがいま 生きている時空は 本当には なんだろう わたしも きみも あのひとも ほんとうに みたい物語 つくりだす 魔法使い 夢をみている 夢をみた 夢のなかの ま…

第2回スペイン音楽国際コンクール・声楽部門

先日、港区の高輪区民センター区民ホールで一般公開された 第2回スペイン音楽国際コンクール本選会・声楽部門を観覧した。 CD音源審査による予選を経た7名の歌手 /ソプラノ4名、メッゾ2名、テノール1名による競演は、 ほどよい緊張感と情熱につつまれた、見…

トニオ・クレエゲル | トーマス・マン

20世紀ドイツ文学の大家トーマス・マンの 初期短編小説「トニオ・クレエゲル」を読んだ。 1903年に出版された「TONIO KRÖGER」は 1901年発表の処女長編「ブッデンブローク家の人々」で 成功を収めた直後の27歳頃に書かれた作品で、 自伝的要素の色濃い、少年…

詩 イヴニング・エメラルド

わたしのなかの 男性はあなた あなたのなかの 女性はわたし 表現されることのなかった可能性を 演じ合う 土に息を吹きかけて 人間をつくった神々は どうしてこれほどまでに 美しく豊かな世界を 完璧につくりだしたのだろう 闇や悪の力さえ その光のうちに 吸…

声楽と合唱

2012年から声楽を学びはじめて5年経つ。 10年続ければそれなりに歌えるようになるというから ちょうど半人前というところだろうか。 クラシックの声楽において目指すところは、 腹壁に支えられて、ムラがなく安定した、 基音と倍音のバランスのとれた歌声を …

詩 さくらんぼ

ある朝 目覚めて ふと 鏡をのぞくと 見なれた わたしの顔に 見おぼえのない ほくろがふたつ ちょいと くっついていた あら 不思議 いつから あったのだろう いつのまに できたのだろう 毎日みて いるはずなのに あるいは よくみて いないのだろうか まるで …

詩 神無月

秋の深まる 神無月 あちこちの いろいろな 神様たちは いっせいに いづもの国へ むかいます いにしえより つづく かむはかり という 神様たちの寄合が ひらかれるのです 人々が 一年のうちに となえた願い事は おおきくも ちいさくも 美しくも 卑しくも 等し…

ぬか床つくり

先日、雨の降りしきる夕刻に、 ぬか床つくりのワークショップへ参加した。 近年、近所の酒屋さんの軒先でちょいと購入した 自家製のぬか漬けを食べて、はじめて その美味しさに魅了されたことがきっかけで、 またローフードや発酵食の観点からも さまざまな…

かぼす 2017

今年も、かぼすの季節がやってきた。 10月初旬に大分から届いたかぼすは、 気まぐれな9月の天候のせいからだろうか、 例年と比べるといささか不揃いで、 あちこちに傷がついていたが、 ふたつに割ってみると、 いつもと変わらぬジューシーで爽やかな酸味が …

詩 いちじく

初夏の明るい 陽射しをあびた 青緑色の いちじくの実をみていると いにしえの 神話をみているようで どきどきする 神様たちも 同じように 恋をしたのだろうか 秋になると そんなことは すっかり忘れて 赤紫色の 熟れた実をかじる なんて甘く 美味しいのだろ…

詩 なし

空がぐうんと 高くなって 雲がさまざまな 模様を絵描き出し 太陽の光は 透きとおって 絹のように なめらかになり 夜の虫たちが しとやかに 愛の重唱を 歌いはじめたら 秋ですよ もう 秋ですよ と風は涼やかに 頬をかすめて たわむれる そうして わたしは 十…

映画 東京裁判 | 小林正樹

映画監督・小林正樹が、5年の歳月をかけて 1983年に完成させた記録映画「東京裁判」を観た。 なぜ戦争が起こったのかという経緯や背景のみならず、 国際裁判をめぐる各国の思惑や各人の人間ドラマが、 277分の密度の高いフィルムにより浮き彫りになり、衝撃…

静かなる情熱 エミリ・ディキンスン

公開中の映画「静かなる情熱 エミリ・ディキンスン」を 神保町の岩波ホールで観た。 2016年に制作された イギリスのテレンス・デイヴィス監督・脚本による 原題「A QUIET PASSION」は、 かつての知られざる詩人の生涯を、 静かに情熱的に、きめ細やかに描き…

詩 ひまわり

ひまわりをみていると 少女であった幼い頃を 思い出す 夏休み 降りそそぐまぶしい太陽と あふれるような蝉の鳴き声 背丈よりずっと高く 顔よりも大きい ひまわりの花は すこし首をうなだれて 少女に話しかけているようだった 彼女は天を仰ぎ 空にかかるお月…

詩 すいか

ぎらきらとした太陽と 麦わら帽子の夏休み ふと 子どもに戻った私は 熱い砂浜をけり 藍の海へ駆けだした しおっぱい 海水とたわむれて 魚だったころの 記憶をたどれば まるで 地球の羊水に くるまれているよう なんて静かで 心地よいのだろう 遊びつかれて …

詩 くものうえ

たくさんの雨 垂直に降る雨 バッハの音楽のよう なにかをどこかとつなぐ たくさんの風 水平に吹く風 ベートーヴェンの音楽のよう なにかをどこかへはこぶ くものうえ 白くふわふわとした くものうえ あ、あの人がいい 何かに導かれるように お腹へ入った 地…

黒澤明 | 静かなる決闘 醜聞

映画監督・黒澤明/1910-1998の 比較的初期の作品「静かなる決闘」と「醜聞」を観た。 いずれも見応えのある、力強い作品だった。 「静かなる決闘」/1949年は、 終戦間際の野戦病院での手術中に 誤って患者のスピロヘータ/梅毒に感染した、 若い医師の苦悩…

山本亭と帝釈天

梅雨らしい雨曇りの日に 東京都葛飾区柴又の山本亭へ行った。 日本橋からおよそ14㎞東北に位置し 江戸川をはさんで千葉県と隣接する柴又は、 もっぱら山田洋二監督の映画 「男はつらいよ」シリーズの舞台として有名だ。 京成線・柴又駅から徒歩10分ほどの 江…