詩 さくらんぼ

ある朝 目覚めて ふと 鏡をのぞくと 見なれた わたしの顔に 見おぼえのない ほくろがふたつ ちょいと くっついていた あら 不思議 いつから あったのだろう いつのまに できたのだろう 毎日みて いるはずなのに あるいは よくみて いないのだろうか まるで …

詩 神無月

秋の深まる 神無月 あちこちの いろいろな 神様たちは いっせいに いづもの国へ むかいます いにしえより つづく かむはかり という 神様たちの寄合が ひらかれるのです 人々が 一年のうちに となえた願い事は おおきくも ちいさくも 美しくも 卑しくも 等し…

ぬか床つくり

先日、雨の降りしきる夕刻に、 ぬか床つくりのワークショップへ参加した。 近年、近所の酒屋さんの軒先でちょいと購入した 自家製のぬか漬けを食べて、はじめて その美味しさに魅了されたことがきっかけで、 またローフードや発酵食の観点からも さまざまな…

かぼす 2017

今年も、かぼすの季節がやってきた。 10月初旬に大分から届いたかぼすは、 気まぐれな9月の天候のせいからだろうか、 例年と比べるといささか不揃いで、 あちこちに傷がついていたが、 ふたつに割ってみると、 いつもと変わらぬジューシーで爽やかな酸味が …

詩 いちじく

初夏の明るい 陽射しをあびた 青緑色の いちじくの実をみていると いにしえの 神話をみているようで どきどきする 神様たちも 同じように 恋をしたのだろうか 秋になると そんなことは すっかり忘れて 赤紫色の 熟れた実をかじる なんて甘く 美味しいのだろ…

詩 なし

空がぐうんと 高くなって 雲がさまざまな 模様を絵描き出し 太陽の光は 透きとおって 絹のように なめらかになり 夜の虫たちが しとやかに 愛の重唱を 歌いはじめたら 秋ですよ もう 秋ですよ と風は涼やかに 頬をかすめて たわむれる そうして わたしは 十…

映画 東京裁判 | 小林正樹

映画監督・小林正樹が、5年の歳月をかけて 1983年に完成させた記録映画「東京裁判」を観た。 なぜ戦争が起こったのかという経緯や背景のみならず、 国際裁判をめぐる各国の思惑や各人の人間ドラマが、 277分の密度の高いフィルムにより浮き彫りになり、衝撃…

静かなる情熱 エミリ・ディキンスン

公開中の映画「静かなる情熱 エミリ・ディキンスン」を 神保町の岩波ホールで観た。 2016年に制作された イギリスのテレンス・デイヴィス監督・脚本による 原題「A QUIET PASSION」は、 かつての知られざる詩人の生涯を、 静かに情熱的に、きめ細やかに描き…

詩 ひまわり

ひまわりをみていると 少女であった幼い頃を 思い出す 夏休み 降りそそぐまぶしい太陽と あふれるような蝉の鳴き声 背丈よりずっと高く 顔よりも大きい ひまわりの花は すこし首をうなだれて 少女に話しかけているようだった 彼女は天を仰ぎ 空にかかるお月…

詩 すいか

ぎらきらとした太陽と 麦わら帽子の夏休み ふと 子どもに戻った私は 熱い砂浜をけり 藍の海へ駆けだした しおっぱい 海水とたわむれて 魚だったころの 記憶をたどれば まるで 地球の羊水に くるまれているよう なんて静かで 心地よいのだろう 遊びつかれて …

詩 くものうえ

たくさんの雨 垂直に降る雨 バッハの音楽のよう なにかをどこかとつなぐ たくさんの風 水平に吹く風 ベートーヴェンの音楽のよう なにかをどこかへはこぶ くものうえ 白くふわふわとした くものうえ あ、あの人がいい 何かに導かれるように お腹へ入った 地…

黒澤明 | 静かなる決闘 醜聞

映画監督・黒澤明/1910-1998の 比較的初期の作品「静かなる決闘」と「醜聞」を観た。 いずれも見応えのある、力強い作品だった。 「静かなる決闘」/1949年は、 終戦間際の野戦病院での手術中に 誤って患者のスピロヘータ/梅毒に感染した、 若い医師の苦悩…

山本亭と帝釈天

梅雨らしい雨曇りの日に 東京都葛飾区柴又の山本亭へ行った。 日本橋からおよそ14㎞東北に位置し 江戸川をはさんで千葉県と隣接する柴又は、 もっぱら山田洋二監督の映画 「男はつらいよ」シリーズの舞台として有名だ。 京成線・柴又駅から徒歩10分ほどの 江…

詩 びわ

子どものころ 住んでいた家の庭に びわの樹があった ごつごつとした幹は のぼるにちょうどよく ごわごわとした葉は ままごとの器になった 春と夏のはざまに結ばれる 小さくも たわわな果実は 鳥たちが ほとんどついばんでしまうのだけれど ときには ひとつか…

詩 すもも

空をわたる 鳥 地面に映った 鳥の陰 歌を唄う 鳥 遠くから届いた 鳥の声 陰影を手がかりに 存在を識る マグリットの絵でもなければ 芝生にひろがる陽だまりは 雲のかたちをなぞるのが自然さ つまり思想とは 能力のことだよ と君はいった 雲ひとつない 青空を…

METとパブリックドメイン

先日、朝日新聞にて ニューヨークのメトロポリタン美術館が パブリックドメイン/著作権が無効となった所蔵作品の オープンアクセスに関するポリシーを変更したという記事を読んだ。 1870年設立のメトロポリタン美術館は、 過去5000年におよぶ世界各国の文化…

旧白洲邸 武相荘

ゴールデンウィークの中日に、 東京町田市にある 旧白洲邸・武相荘/ぶあいそうへ行った。 白洲次郎・正子夫妻の旧邸宅は、 新宿より急行でおよそ30分、 小田急線・鶴川駅より徒歩15分ほどの小高い丘のうえに、 こんもりとした緑につつまれて、穏やかに佇ん…

すみだ北斎美術館

染井吉野が葉桜になりかけ、八重桜が満開に近い頃、 昨年11月にオープンした、すみだ北斎美術館へ行った。 江戸時代後期の絵師・葛飾北斎/1760-1849の ほぼ生誕の地に新設されたという美術館は、 JR両国駅からほど近い緑町公園の一角にあった。 一説によ…

美についての覚書

純粋で美しい者は、 そもそも人間の敵なのだということを忘れてはいけない。 /「天人五衰」著・三島由紀夫 美は、ただそれだけで、醜いこの世への侮蔑です。 美は誰にも愛せぬものです。 /「天井桟敷の人々」脚本・ジャック・プレヴェール 訳・山田宏一 人…

古唐津 | 出光美術館

3月の終わりに、有楽町の出光美術館で 古唐津/こがらつ展を観た。 古唐津とは、桃山時代/16~17世紀にかけて 九州の肥前/佐賀および長崎地域で焼かれた焼き物で、 戦国大名が連れ帰った朝鮮陶工たちを起源とする 近世初期の窯場のひとつだ。 展覧会では、…

さくら 2017

今年も、ベランダの啓翁桜が開花した。 一年ぶりに、 淡いピンク色の花に逢えて、うれしい。 さくらの花の塩漬けをつくってみたいけれど、 咲いている最中の花を摘むことに、 なかなかためらいを感じてしまうのです。 さくら sagacho-nikki.hatenablog.com

木山捷平 | 井伏鱒二 弥次郎兵衛 ななかまど

木山捷平/きやましょうへいの晩年の短編集 「井伏鱒二 弥次郎兵衛 ななかまど」を読んだ。 備中/岡山出身の木山捷平/1904‐1968は、 終戦間際の1944年12月に40歳で満州へ徴用され、 中国・長春で農地開発公社の嘱託に就き、 ほどなく現地召集をうけて応召…

山陰の旅 鳥取編 

中国山地の北側に位置し 日本海に面して東西にひろがる山陰地方は、 古代にまでさかのぼる歴史をもち、 かつて出雲・石見・隠岐・伯耆・因幡と呼ばれた国々は 多くの神話の舞台となったことから、 神話の国とも謳われている。 島根から東へ、中海/なかうみ…

山陰の旅 島根編

冬の名残と春の陽気が交差する3月の上旬に 山陰の島根・鳥取へ小旅行をした。 島根の出雲大社・足立美術館・松江・美保神社、 鳥取の境港・倉吉・智頭宿・砂丘を巡り、 玉造と三朝の温泉に宿泊するという 駆け足のバス旅行だったが、 はじめて訪れた山陰地方…

詩 ラピスラズリ

純粋さは 否定によって強化される 繊細すぎる君は 愛を忘れてしまう あなたを想う独りの時間を あなたに侵されたくない とうたっている 動物でも天使でもなく 無邪気な子供のやり方で 青い嵐をおこす わかっている 星の位置は そのうち変わる 思い出す 生ま…

深川のお不動さん

1月の終わりころ、ぎっくり腰を経験した。 朝起きしなに、物を取ろうと ほんのすこし前屈した瞬間に、激痛がはしった。 背中から腰にかけての鋭い痛みに、 しばらくの間、どうにもこうにも動けなかったが、 症状が落ちついてから、近所の整体院へ初診に伺う…

詩 オレンジ

オレンジ色に 塗られたオレンジ 忘れてしまう 忘れてしまったことさえも 忘れてしまう 小さな雪の 降る朝に オレンジ色のくちばしの 鳥が2羽 飛んできた 過去と未来は 現在とともに 形をかえる 花の精は 特別なときに 姿をかえる 花瓶のなかには 鳥のくちば…

酒粕とパン

寒い時期には、個性豊かな各種の 新鮮な酒粕が手に入りやすいので、うれしい。 たとえば、鍋ものやスープに加えると、 なんとも味わいに奥行きがますようだし、 ご飯を炊くときに加えると、 つややかにふっくらと、 ほんのり甘く炊き上がるので、不思議だ。 …

詩 いちご

きみが元気になるようにと あなたからのおくりものの 赤いいちご わたしは 熱でほてった 身体をおこして 花束のような 宝石のような あなたのいちごを ほおばった みずみずしく そして このうえなく 甘酸っぱい なにより あなたのやさしさを

詩 りんご

りんごの形をした雲が 水色の空に ぽかりとうかんでいた 空も おなかが空いたのだ ひとくち ふたくち かじられて ちぎれた雲は 流れ消えゆく 音もなく おだやかに