梅雨らしい雨曇りの日に
東京都葛飾区柴又の山本亭へ行った。
日本橋からおよそ14㎞東北に位置し
江戸川をはさんで千葉県と隣接する柴又は、
もっぱら山田洋二監督の映画
「男はつらいよ」シリーズの舞台として有名だ。
京成線・柴又駅から徒歩10分ほどの
江戸川の袂/たもとに位置する山本亭は、
土地ゆかりの山本工場/カメラ部品の製造業の
創立者・山本栄之助のかつての邸宅で、
現在は葛飾区により一般公開されている書院造のお屋敷だ。
関東大震災後の大正末期に建てられ、
昭和初期に増改築されたという瓦葺の日本家屋は、
南側の庭園に面して翼を広げるように東西にのびる
細長い長方形をした端正な建物だ。
縁側のガラス戸越しに庭園をのぞむ6つの畳の間は
襖が開け放たれ、明るく広々として気持ちがよい。
家屋の倍ほどもある立派な日本庭園は、
滝の流れる音や樹々の葉擦れ、野鳥の声が重なり合って
賑やかな静けさに満ちていた。
折よく薄紫色の花菖蒲がきれいに咲いていたので、
館内の好みの場所でいただけるお抹茶とともに、
ひと時の豊かさに寛いだ。
12時の鐘を聴いたような、聴かぬような、
帰り際に古時計が3つ並んでいるのを目にした。
真ん中のひとつは日本を、
左は北京を、右はウィーンの時刻を指していた。
地球が丸いこと、世界は広いことを思い起こさせ、
意識はぐぐーんと拡大する。
非公開だが別棟に茶室を設えるような、
実業とともに人文に通じていたであろう当主に好意を寄せた。
帝釈天/たいしゃくてんとして親しまれている
経栄山 題経寺/きょうえいざん だいきょうじは、
1629年/寛永6年に開山された日蓮宗のお寺だ。
帝釈天とはインドをルーツとする武勇神インドラの和名で、
宗祖である日蓮によって彫られたとされる
帝釈天の板本尊が伝承され、
縁日の庚申/こうしんの日に御開帳されるのだという。
総けやき造りの山門および帝釈堂/喜見城の内外には
夥しいほどの木彫が施され、格別の存在感を放っていた。
また、長く枝を伸ばした瑞龍の松や、湧き出でたご神水、
回遊式の庭園・邃溪園/すいけいえんなど、
随所に見所のあるユニークな寺院で、
とりわけ龍の力強いエネルギーが象徴的だった。
映画のイメージが先行して
どことなく近寄りがたい柴又だったけれど、
気取りのないさばさばとした下町の風情が新鮮だった。
緩やかにカーブしながら続くおよそ200mの参道は
ほどよく賑わい楽し気で、名物の草団子もとても美味しい。
6月の下旬には、夏越の祓/なごしのはらえの
茅の輪/ちのわくぐりで上半期の穢れを祓うけれど、
よもぎ入りの草団子で、過ぎた半年の
邪気を祓いたいな、祓えるかな。